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父ちゃんのポーが聞こえるのMOCOのレビュー・感想・評価

父ちゃんのポーが聞こえる(1971年製作の映画)
4.5
「ほら、列車の音が聞こえるだろ、この病院(療養所)の下を来月から毎週木曜日に父ちゃん客車を引いて通るんだ、朝のくだり5時50分頃と帰りののぼり16時20分頃、その時父ちゃん必ず汽笛で合図してあげるからね。いいか、ポーポッポーその汽笛を聞いたら父ちゃんの挨拶だと思ってくれ、わかったね」

 治療方法が見つからない則子さんは、治癒の可能性がある人のためにベッドを譲り、病院を追われ人里離れた療養所に入ります。家に帰りたい則子さんを一人療養所に残すためにお父さんが則子さんと交わした約束でした。
 そして毎週木曜日の汽笛が始まるのですが、お父さんの運転する汽車が、踏切内に立ち往生しているトラックと接触してお父さんは入院するのですが、則子さんと連絡がとることもできないまま、則子さんと交わした約束を守ることが出来なくなってしまいます。

 実話を基に作られた映画です、映画化で則子さんの詩集は話題になり、汽笛のお話は美談として新聞にもとりあげられた記憶があります(汽笛は鳴らし方でさまざまな合図になっているため、現代ならネット上で「危ない」「私物化」と大騒ぎです)。

 映画では語られていないのですが則子さんの「ハンチントン病」は現在も治療法がなく、則子さんはお母さんから遺伝しているようで、お母さんも長い闘病の末、若くして亡くなられているようです。
 則子さんは中学3年で発症して21才で亡くなられたようですが、小学6年生の時にお母さんが亡くなるのを目の当たりにしている則子さんにとっての闘病生活は想像し難いものがあります。

 ビデオを購入して持っているのですが、甘いビントで見辛い映像だったので今回の日本映画専門チャンネルでの放送は大感謝でした。こういった学校の講堂や視聴覚室で観るような良作映画が、現在レンタルも販売もされていないのは本当に残念です。
 
 若い吉沢京子さん小林桂樹さん司葉子さん吉行和子さんの熱演も素晴らしいのですが、お父さんの同僚を演じる藤岡琢也さんが藤岡琢也さんらしい、とぼけた味のある演技をしています。

 お父さんの再婚で居場所をなくしていく則子さんをかわいそうに思う藤岡琢也さん演じる丸山源太郎夫婦には子供がなく、則子さんのお母さんが闘病中に則子さんを預かっていたこともあり、則子さんがたまらなく可愛く、難病であることが解っても養女にしたい気持ちが変わらない優しい役どころです。
 施設に預けられる則子さんを思い、則子さんの父親とはやがて反目し、いつしか交流することもなくなるのですが・・・。

 則子さんは不自由な手で、汽笛のなる数分前に目覚まし時計のベルをセットして、毎週木曜日のお父さんの汽笛を待ち続けます。

 その朝、則子さんは汽笛を待ちながら息を引き取られます。
 お父さんの入院中も毎週木曜日の約束の時間に汽笛は何故か鳴り続け・・・。
 自然と涙が頬をつたいます。

 
「ポー汽笛がこだまする。
空に小さく消えていく。
朝5時50分ちょうど。
父だ、父の引いている列車が、
療養所の下を走っているのだ。
ポー胸の奥で密かに、
則子も声のない汽笛をあげる」松本則子
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