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竜二のMOCOのレビュー・感想・評価

竜二(1983年製作の映画)
4.0
「あや、おばあちゃんのとこ帰ろうか?」(まり子)
「また『ぜんにっくう』にのれるの?」
「・・・そうよ」

 1983年、多くの観客に衝撃を与えた一本の映画があった。その作品の名は「竜二」。
 自主制作ながら全国公開を成し遂げ、それまでになかった新しいリアルなヤクザ映画として熱狂を持って迎えられた。
 しかし、主演・脚本の金子正次は「竜二」に命を注ぎ込んだように公開からわずか一週間後に亡くなった。(DVDパッケージより)


 新宿にシマを持つ三東会の幹部花城竜二(金子正次)はマンションにルーレットの賭博場を開き舎弟の間抜けな直(佐藤金造)と駆け出しのひろし(北公次)に仕切らせ組の誰にも負けない稼ぎをしています。
 三年前、竜二は妻まり子(永島暎子)との間に娘あや(金子桃=金子の実の娘)が産まれ新たな生活が始まったのですが、カタギを相手に暴力沙汰を起こし拘置所に入れられてしまいます。
 ひろしと直では保釈金を用意することができず、まり子は九州の両親に会いに行きます。

 竜二は保釈されるのですが、まり子が用意した保釈金は「竜二と別れることを条件に」まり子の父親が出してくれた手切れ金だったのです。
 その事を聞かされた竜二は直とひろしに当り散らすのですが、どうすることも出来ずまり子と娘は九州に帰ってしまいます。

 ルーレット賭博で稼ぎが安定してきた3人だったのですが、竜二もひろしもまり子とあやのいない生活に充たされないでいました。

 竜二は、足を洗い夫婦で小料理屋をやっているかつての兄貴分関谷に会いにいきます。
「自分のことは何もかも捨てて、女房・子供のために生きようと決めたんだ・・・」関谷はカタギになることを勧めます。

 組は新宿のビルの借り店舗を引き払った際に契約の手落ちで保証金の回収が出来ずに困っていたのですが、竜二が出向き誰もできなかった回収をします。
 竜二はこの小切手を手土産にヤクザの世界から足を洗い九州にまり子とあやを迎えに行きます。

 カタギとなった竜二はまり子とあやの3人の生活を小さなアパートで始めます。
 関谷から紹介された酒屋で働きトラックでお得意様に酒を配達にまわる毎日は、思いもよらず重労働で安月給だったのですが、毎日まり子が笑顔で迎えてくれる生活は竜二にとって充実した生活になります。

 ある日、かって兄弟分だったシャブ中の柴田一馬(カズ)が、帰宅する竜二を待ち伏せし金の無心に現れます。給料日だった竜二は一度は給料袋の入ったポケットに手を当てるのですが、思い止まり財布の中の5千円にも満たない小遣いを渡して立ち去ります。自由になる金が無いことで男気のある竜二はなんとも言えない焦燥感にさいなまれます。

 ある日、カズの死を聞いた竜二はカズのアパートを訪れ、情婦のあけみに香典を渡すのですが「死んでからもらったって何の役にもたちゃしない」と言われ、アパートの玄関であけみの新たな男になっている直に会い、直もジャブ中になっていることに気がつきます(カズと直のジャブ中は、ジャブ中のあけみに原因があるのです)。

 竜二の焦燥は仕事に影響が出始め配達中にサボるようになり、家計簿をつけて溜息をつくまり子に苛立つようになります。

 ある日、ひろしが訪ねてきます。家で鍋をつつき、酒を飲み竜二は真顔で尋ねます。
「俺、変わったろう?」
「いいえ、竜二さんはいつでも竜二さんですよ」
「直に会ったよ、てめえが助けてやれんのかよ」
 竜二の目付きは・・・。

 その夜、まり子はどうしょうもない不安をかき消すかのように竜二のからだを求めます・・・。

 貫禄を身につけて舎弟を連れ現れたひろし・・・
 直は、俺がカタギにならなければ・・・
 ヤクザから足を洗ってからのつまらない生活・・・。
 仕事帰り商店街で娘と買物の会計を待つ人の列に並んでいるまり子を少し離れたところで見つけた竜二は、気が付いたまり子と目が合うと無言で背を向けて商店街を出ていきます。
「俺はこんな世界の生活はできない・・・」
 竜二の気持ちを悟ったまり子は追いすがる訳でもなく、悲しい気持ちをかき消すように娘のあやに話しかけます・・・。

 商店街でまり子とあやに背を向けた竜二は二度と振り向くことはなく、その日を境に竜二は・・・。


 この映画は作品とし高い評価を受け、多くの映画祭で賞を取り、映画上映期間中に亡くなられた主演の金子正次氏も高い評価を受けています。
 丹波義隆(丹波哲郎氏のご子息)と雰囲気が被る金子正次氏の演技力がそこまで評価されるものかはよくわからないのですが、 鈴木明夫名で立ち上げている脚本と着想は光るものを感じます。
 ヤクザ映画と言えば縄張り争いなどの対立抗争で銃の乱射・刀を振り回しての決闘・・・と、非日常的な展開で、最後は正義?のヤクザが勝利を納めてスッキリ・・・という展開が定番なのですが、この映画はそれまでのヤクザ映画とは全く違い、銃も出てこなければ、刀も出て来ない・・・その世界(ヤクザ社会)でしか生きて行けないヤクザのごくごく日常が描かれているのです。
 社会の一人として生きていくことの出来ないヤクザな男の切ない性(さが)が・・・。
 
 
第7回日本アカデミー賞 新人俳優賞(金子正次)
第26回ブルーリボン賞 助演女優賞(永島暎子)
第26回ブルーリボン賞 新人賞(金子正次)
第38回毎日映画コンクール スポニチグランプリ新人賞特別賞(金子正次 演技と脚本)
第8回報知映画賞 助演女優賞(永島暎子)
第5回横浜映画祭 主演女優賞(永島暎子)
第57回キネマ旬報ベスト・テン 助演女優賞(永島暎子)
1984年度全国映連賞 主演男優賞(金子正次)
 主演の金子正次氏と永島暎子さんの二人は多く受賞しています。

 永島暎子さんに「七年役者をやってますけど『竜二』という作品に出会えて、今年やっと映画が面白くなって、金子正次という凄い人間、俳優さんと共演したことでパッと眼が開いた感じ・・・」と言わしめた作品です。
 北公次氏(2012年63歳没)はフォーリーブス解散(1978年)後の初めての映画出演、34歳の元アイドルの不思議な魅力を感じます。
 川島透監督の初監督作品とも言われている作品です。
 若い笹野高史氏が酒屋の同僚としてチョロっと出演されています。
 当時ビデオを持っていたのですが今回の観直しまで、ほとんど内容を忘れていたのですが、思い出しながらの観賞ができました。

 金子正次氏は「この歌に出会わなければ、この映画は作れなかった」と語っていたのが「井上堯之バンド」のギタリスト速水清司氏作詞・作曲で(私の大好きな)萩原健一氏が歌っていた『ララバイ』です。
 映画はこの歌で始まり、この歌で終わるのですが、映画の制作にあたって萩原健一氏は二つ返事で使用許可の返事をしたそうです。
 金子正次氏が触発された歌詞がそこにあります。

 金子正次氏も萩原健一氏も北
公次氏も、今はもういないのですね・・・


『ララバイ』
   作詞 速水清司

その無邪気な 澄んだ瞳
夢見ている 幼い子
元気で いるかい 
友達 いるかい
せめて お前に
My Baby Lulla-By

離れてみりゃ 不思議なものよ
会いたくて 気が滅入る
オモチャ あるかい
泣いたり するかい
せめて 唄うよ
My Baby Lulla-By

この世界の 何処までも
歩いて行けよ その足で
うらむも いいさ
いかるも いいさ
せめて 唄うよ
My Baby Lulla-By
きっと いつかは 
願いも かなうさ
静かに おやすみ
My Baby Lulla-By
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