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美しき諍い女(いさかいめ)のkuuのレビュー・感想・評価

3.7
『美しき諍い女』 
原題 La belle noiseuse.
製作年 1991年。上映時間 237分。

日本公開にあたり、モデルを演じるエマニュエル・ベアールの“ヘア論争”が巻き起こったリベットのフランス製問題作(ヌードが露骨であるにもかかわらず、作中のヌードはすべてノンセクシャルです)。
余談ながら、黒澤明監督は、亡くなる直前に、1990年代に作られた映画の中で最も好きな2作品(もうひとつは北野武監督の『花火』)のひとつとして、この『La belle noiseuse』を挙げ、
『芸術家が自分の技に取り組む姿を描いた最高の映画、自分も監督したかった映画』と語っていたそうです。

老画家の屋敷を、新進画家が訪ねてきた。
彼の恋人を見た老画家は、10年間中断していた野心作“美しい諍い女”の制作再開を決意する。
かつて“美しい諍い女”のモデルを務めた妻、創作に悩む老画家、最初はモデルを拒んでいたが次第に積極的に老画家に挑み始める娘、そしてその恋人。 
二組のカップルの関係にも緊張が走りはじめる。。。

オノレ・ド・バルザックの有名な短篇
『知られざる傑作』
を自由に脚色したジャック・リヴェット監督の四時間に近い長篇でした。

南フランスの別荘に妻ジェーン・バーキンと滞在することになった画壇の巨匠ミシェル・ピコリが若 い画家ダヴィッド・バースタインの愛人エマニュエル・ベアールをモデルに製作をはじめ、傑作を完成するが、そのあとに芸術家気質を発揮した微苦笑を誘う肩スカシ的結末。
こないなお話で4時間近くもかかったのは、主人公の旧友で恋仇でもある画商や、若い画家の妹も含めて登場人物たちの心理的ニュアンスと行動が、きわめて日常的なタッチでゆったりと描かれていることも一因してるかな。
主人公がエマニュエルにいろいろなポーズをつけて、デッサンを描いていく過程が実に丹念に延々と展開されていくのが主因で、そのデッサンが描かれていく過程にはアンリ・ジョルジュ・クルーゾ監督の『ピカソ・天才の秘密』と共通したものを感じさせました。
ピカソの場合ほど魔術的面白さはないが、いろんなポーズをとらされるエマニュエルの魅力、画布を走る木炭のカサカサと拡大された音の効果が、当時の映画にはなかったような境地を生み出しているんじゃないかな。
ほかの日常的な物音も強く録音され、それが現場の静けさを強調する結果になっている点も注目に値
するとこかなぁ。
美しい登場人物の、美しい映画でした。
まぁ今作品の本質は、芸術を生み出そうとする芸術家の試行錯誤を垣間見ることができることで、
挑戦、
葛藤、
犠牲、
フラストレーション、
その他多くの表現と感情が描かれていました。
ペンから紙にインクが流れていく様子は、まるで芸術が生み出されていく様を見るような感覚を与えてくれましたし、スクラッチや一見無造作なストロークが、洗練されたり消されたりすることで、突然、識別可能なアートになる。
個人的には、それらのほとんど感じ、驚きました。
長時間の視聴時間でも後悔はしてないかな。
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