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ゾンビ/ディレクターズカット完全版のshxtpieのレビュー・感想・評価

5.0
初めて見た時の衝撃は忘れられません。『ドーン・オブ・ザ・デッド』は、色々な点で、現代の映画のベーシックをかたちづくった映画だと言っていいでしょう。映画として素晴らしい出来なのかと聞かれたら、まったくそうじゃなくて、荒さや雑さ、歪さ、醜さがいっぱいある映画だと思います。とはいえ、です。ここにあるアイデアとエレメントは、ゾンビもの一般のみならず、あらゆる物語に影響を与えているはずです。そんなことを抜きにしても、『ドーン・オブ・ザ・デッド』におけるメランコリーとユーフォリアとモラトリアムの独特な感覚、ユートピアとディストピアの緊張感のあるアンビバレントな同居、人間そのもの、社会や共同体、資本主義に対するアイロニカルな眼差しは、本当にかえがたいものだと思います。ラストも、どこか象徴的です。思いっきりネタバレになりますが(こんな超古典について、ネタバレなんてあってないようなものですが)、最後に生き残るのは女性(彼女は妊婦でもある)と黒人です。もちろん、人間をジェンダーや人種に還元して語ることには問題がありますが、『ドーン・オブ・ザ・デッド』の「結論」は勇気のあるものであり、希望や願い、祈りを感じるものではないでしょうか。彼らは、つまり、合衆国のアダムとイブになるわけです(これは比喩であって、『ドーン・オブ・ザ・デッド』の物語の後に二人が夫婦になって子をもうけるとか、そういう意味ではありません)。二人のサバイバーがひとつのメッセージを発していることは、特に現在の視点からこの映画を見る時に重要だと思います。
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