マヒロ

平成狸合戦ぽんぽこのマヒロのレビュー・感想・評価

平成狸合戦ぽんぽこ(1994年製作の映画)
4.5
人間による土地開発で棲家の山を勝手に切り拓かれたタヌキ達は、自分達の居場所を守るべく失われつつあった変身術(「化け学」)を習得し、開発工事の妨害を始める……というお話。

高畑勲作品といえば、昔テレビで『火垂るの墓』を観て大いなるトラウマを植え付けられて以来の鑑賞なのでだいぶ久しぶり。『ぽんぽこ』というタイトルとたぬき達のファニーな見た目に反して、内容は環境破壊に対する凄まじい怒りに満ち満ちており、露骨な描写はないが人間側にもタヌキ側にも普通に死者がでるなどなかなかの過激さで『火垂るの墓』にも負けず劣らず社会派な作品。
とは言え基本的には愉快なエンターテインメント作品で、土地開発に脅かされながらもタヌキなりに自分達の生活を全うする前半は、豊かな自然の描写も含めてシンプルに楽しい。タヌキの中でも様々な思想の持ち主がいて、見た目もバラエティ豊かでキャラ立ちしており、タヌキ社会での勢力争いみたいなものもあり面白い。

タイトルでは「合戦」と銘打ってはいるが、基本的にタヌキが一方的に攻撃を繰り出してるだけで人間達にはほとんど効いておらず、ワイドショーのネタとして消費させられるくらいなのがなかなかシビア。タヌキによるささやかな反抗は巨大な資本主義の波に対しては余りにも無力で、言ってしまえば終始負け戦に挑んでいるようなもので、リアルな厭世観が漂っているのは闘争世代の監督が経験してきた現実が反映されているのかも。ただ、そんな中でも隠しきれない反骨精神が見え隠れするようなアツさも見え隠れし、ただでは転ばないような強烈なメッセージ性がある。

可愛らしいアニメーションでオブラートに包みつつ、直接的に訴えかけてくるようなパワーがあり、思っていた以上に圧倒される作品だった。宮崎駿作品と思想のベクトルは同じだと思うんだけど、少女趣味みたいなものが一切ないところが一番大きな違いな気がする。

(2022.176)
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