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百万円と苦虫女のsingerのレビュー・感想・評価

百万円と苦虫女(2008年製作の映画)
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蒼井優が日本アカデミー賞で最優秀主演女優賞を受賞した、
「彼女がその名を知らない鳥たち」を観た時、
なんとなぁく思い出したのがこの作品でした。

で、今回観返してみて、その理由がちょっとだけわかったような気がします。

それは、「苦さ」なのかなと。
この作品、やっぱりタイトル通り、観てみいてほんのりと苦ぁあいんですよね。
こういう、苦々しい蒼井優も、結構好きかもって思うと同時に、
過去のレビューでも書いているように、タナダユキとまた一緒に映画作って欲しいなぁと思ってたら、
来年「ロマンスドール」で、また蒼井優/タナダユキのタッグが見れるようで、嬉しいですね。
でも、今作と同様に、ピエール瀧も出演してるんで、無事に公開に至るのかどうかが気がかりでもありますが、
来年1月に公開されるようなので、来年を楽しみにしていたいと思います。

以下は、2009年2月にブログに書いたレビューです。
あれから、もう10年かぁ。
しかし、蒼井優って見た目が、そこまで老けてきてないのが凄いなぁと。
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良い映画でしたし、とても面白かったですね。
作り手の狙いが、しっかりと伝わってきたし、
それが、殆ど狂いなくキチンと収まっている事の心地良さがずっと在りましたね。

日本映画だから感じられる台詞回しの面白さとか、間の取り方とか、
主人公が転々とする町や村の情景など、日本人にしか感じられないような感覚もあって、
こういう映画を観ると、「日本人で良かったなぁ」と思わされる。
そんなわけで、とても美味しい日本料理の一品という感じの一作でした。

まず、ストーリーの着眼点がとてもユニークで、それだけでも興味をそそられるんですよね。
百万円貯まるごとに、見知らぬ街へと住居を転々とする21歳の主人公、鈴子。
彼女は何故、そんな生き方を選ぶようになったのか。
また、ひと所に留まらず、漂うような生き方を選んだ彼女が一体どんな結末を迎えるのか。
そういう所が観る前から、観終わるまで、ずっと気になるんですけど、
ストーリーを追いって行くと、それが少しずつわかってくる。
ひとつひとつの町の出来事や、主人公の行動や台詞を見ながら、
彼女の人生を客観的な視点から見届けているような感じがしましたね。

自分探しではなく、自分を探さない旅。
それでも、そこに自分が居る限り、いやがおうにも自分と向き合わないといけないし、
どこかで腹を括って、生きて行かなくてはならない。
そんな当り前のことに気付かせてくれる作品でもあり、
そういうことをさり気なく伝えてくれる所も、押し付けがましくなくて良かったです。

主演の蒼井優は、とても良かったですね。
彼女の出演作は何本か観ているんですが、凄く良い女優さんだなと思っていました。
その良さというのは、彼女特有のトーンは変えずに、微妙な色の足し引きが出来るという、
そういう、グラデーション・カメレオン女優な所とも言うべきでしょうか。
赤から青とか、そういう劇的な変色ではなく、一つの色を淡くしたり濃くすることで、キャラクターを彩色出来るような、そんな感じ。
今回の役柄は、比較的濃い部類に入るキャラクターだったと思うんですが、
それでも彼女の良さは引き出しつつ、新しい蒼井優も見せてくれる。
そういう、微妙なさじ加減で、演じ分けが出来る所が素晴らしいなぁと、毎回感心させられる女優さんですね。
後、冒頭の留置所のシーンはスッピンだそうです。
それ以外にも結構、メイクダウンしているシーンが多いのに、独特の透明感を損なわない所は凄いなぁと。

今回はDVDを購入したんですが、特典の内容はとても良かったですね。
まず、特典ディスクの方は、蒼井優のインタビューと、メイキング、舞台挨拶と含めて65分収録。
作品の裏側を見て一番感じたのは、タナダ組の撮影がとても良い雰囲気で行われていたんだなぁという所ですね。
そんな雰囲気の良さが、作品のクオリティにも貢献しているような印象を受けました。

そして、100万円札をモチーフにしたブックレット。
こちらは、蒼井優をはじめ、キャスト陣や監督タナダユキのメッセージが入っていました。
後、買った店でポスターも貰ったので、こちらは部屋に貼りました。

最も見応えというか、聞き応えがあったのが、本編ディスクのオーディオ・コメンタリー。
こちらは、監督タナダユキ、主演蒼井優と、進行に「CUT」編集部の上田智子さんを迎えた、
ガールズ・トーク的な内容になっている所が珍しかったですね。
作品の裏話も沢山聞けたし、タナダ監督と蒼井優って、実は似た者同士なんだなぁと思わせるところも多かったし、
映画のさらに奥の部分に触れられる、良いコメンタリーだと思いました。
これだけでも、作品のファンなら聞く価値があるんじゃないでしょうか。

とても面白かったし、タナダユキと蒼井優の相性が凄く良いことにも気付かされたので、
この二人は是非、続編か、違うストーリーでまた一緒にやって欲しいなぁと思いましたね。
本編、コメンタリーと二度鑑賞しましたが、もう一回観たいなぁと思います。
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