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忍者武芸帳のkoyamaxのレビュー・感想・評価

忍者武芸帳(1967年製作の映画)
3.9
白土三平の漫画「忍者武芸帖 影丸伝」を映画化。
というより漫画のコマをそのままカット割りにしてモンタージュで繋げた実験映画です。

現代でも「ビデオコンテ」だったり、アニメにおけるところの「線撮」と、映像を作るプロセスにおいて、完成の尺に合わせて止め絵を使用した擬似的な動画は存在しますし、あらゆるメディアで漫画そのものを撮ることはあるので、もはや手法としては目新しくはないかもしれませんが、原作の流れを長尺で内容全て盛り込むパターンはあまり見ないかもしれません。。

原作自体は戦国時代を舞台に一揆を率いて時の戦国大名と戦う忍者影丸とその一族の攻防を描くという話です。
強大な敵を倒すべく、様々な能力を持った仲間を集め立ち向かう。
という現代に至る少年漫画の王道と言えなくもありませんが、乾いた死生観と、支配層と被支配層の戦いという割と濃い目なテーマが存在しています。

漫画自体もかなり読み応えある内容ですが、きりがないのでここはあくまで「大島渚監督の忍者武芸帖」を観た印象です。


漫画を撮影したものなので、基本的に画の作りは止め画となっています。

白土三平の筆タッチ自体がカッコ良くダイナミックで力強いです。
漫画自体のレイアウトも素晴らしく、空間的なものとして作られているので、漫画の絵を眺めているという感じにならず、その世界に没頭できます。
壮大なモブの合戦シーンなどは圧巻です。それはもう実写でやろうとしてもなかなかできませんね。

秀逸なのは遠景時の人物のシルエットやその佇まいです。
基本的にキャラは戦国時代の忍者たちなので表情は割と淡々としているというか、感情に支配されない行動しているというのもあり、本心が読み取れないところがあります。
しかし、時折入る遠景の人物シルエットの佇まいが何よりも饒舌にその感情を表していることがあり、その婉曲表現にグッときます。表情が伺えない遠景でのポージングも含めて、レイアウト構成が「私情を剥き出しにせず、目的の為に命すら捧げる」忍者たちの一つの感情になっているところもあり、このあたりの表現力が素晴らしいです。


映画自体には効果音や音楽もあるにはありますが、画の中のタイムラインよりもかなり早いテンポで話がバンバンすすんでいきます。
通常アニメのような実際の時間軸の間があまりなく、情感を盛り上げるところも割りとサクサクすすんでいくのでダイジェスト感が否めないところも正直ありました。
純粋に物語を観るにはこのテンポ早すぎかもしれません笑


構造ばかりに関心しているかたちになってしまうので初見時に内容がなかなか頭に入ってこないのが難点です。
具体的に内容に集中するには二回の鑑賞が必要かもしれません。


原作自体の白土三平の乾いた世界の中、首が飛び、手が斬り落とされ、さっきまで喋っていたような、かなり主要人物も斬り刻まれて首と肩だけになってしまったりとグロゴア残虐表現がざらにありますが、「生」から「死」を飛び越えていきなり「モノ」と化した死体を見せつけられるので、無残な死体をたくさんみせられますが「死』に関しては全く語られていないこと同様になります。それがまた感じたことのないような途方もない虚無感をおぼえます。

これも白土三平の死生感に由来するものだとおもいますが、映画に於いても異常に早く、ある意味何かを考えさせないスピード展開はこの原作の姿勢に則っているのかもしれません。

アニメというには絵自体全く動いてないですが、画としての躍動感さえあれば動いて見えるものですね。

人間が生きていくことの壮絶さという主題自体は漫画の絵そのものにあるので映画としてはどうなんだろうというのが正直ありますが映像の語彙、漫画の語彙を改めて知るという意味では見応えはあります。これをきっかけで原作の「忍者武芸帖」も読破したくなります。
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