昭和38年公開のシリーズ7作目。 なんかピッチが早すぎないかい?、と思って調べると、昭和38年に公開した悪名シリーズは、『第三の悪名』『悪名市場』『悪名波止場』『悪名一番』 と四本もある。 これじゃあ息切れ、ネタ切れするのも致し方ありません。
前作『悪名市場』のエンドで出てきた藤田まことの贋清次。 芦屋雁之助・小雁で贋物ネタをやっといて、エンドでダメ押しするとは芸のないことするなあと思っていたら、本作の『悪名波止場』のトップ・シーンでその続きをやっている。 つまり、前作とのブリッジ、『悪名市場』の続編という体裁なのでした。
う〜ん、これは苦しい。 が、本作でようやっと悪名シリーズのスタイルが確定した感があります。 最初、浅吉と清次は日本版ローレル&ハーディだろうと思ってたんですが、そうじゃなくて、お照含めた疑似家族の国内旅情映画なんだね。 東宝が社長や若大将で海外やるんだったら、こっちは国内で攻めようということなんでしょう。
でもねえ、旅情映画というスタイルは、日本映画を劣化させた理由の一つでもあるんだと思うんだね。 だって、風景変えれば、設定や葛藤は全部同じでいい訳で、ストーリーを考える必要がないからね。 今のひな壇芸人番組しかないテレビ局の発想と同じですよ。
それと、女性の扱い方が変わってしまったこと。 なんと、ホットパンツの女性が沢山出てくるんですよ。 藤田まことが劇中で“そのボリュームある体でやなあ〜、ちゅ〜っと吸い付いたれ!”と、お下品なことをくっちゃべる。 この時代、海外の肉体派女優の映画がバンバン入ってきた時代ですから仕方ないとは思いますが、でもね、矢張り日本人だったら成瀬巳喜男の女性観で良いと思うんですけどね、まあ、今だから言えることではあるんですが・・・。
この作品でシャブ中になっている女性を、何故浅吉がそれほどまでに肩入れするのかって、今の若い人だと判らないと思うんだけど、昔はお金を稼ぐ手段も限られていたんで売春婦が多かったんですね。 当然、堕胎も多い。 相手は殆どがヤンキー、あるいは三国人に陵辱されてという人も多い。 ちゃんと処置できる医者も少ないんで、手術をして逆に身体がボロボロになったりする人も居る訳です。 で、痛みを抑えるために覚醒剤に手を出すんですね。
つまり、シャブ中になってる女性って、ある意味日本の戦後処理を背負っている被害者でもある訳で、そこで浅吉が正義感に燃えた訳です。 つまり、そういう連想ゲームなんですよ。
あ、それとこの映画のお宝。 先ずは『ミッチー音頭』の青山ミチ。 なんとこの時14歳。フルコーラスで2曲も歌っているという特別待遇。 メチャクチャ歌がうまい! この人、その後はシャブ中、万引き、収監とまるで映画のような転落人生。 なので、そんな事を考えながら聴くのも味わい深いもんがあります。(決して皮肉ではなく)
それから 『黒い花びら』 の水原弘。 演技も中々うまいねえ。 なんかの記事で、もし勝新と出会っていなければ肝臓を悪くして死ぬこともなかったろうに、と書いてありましたが、いやいや、そんなことはありません。 この世に一つも無駄な出会いというのはないのです。 パッと咲いてパッと散る、義理や筋を通す、こういった日本人の人生観を思い出させてくれた人じゃありませんか。
また脱線してしまいました。 本作は、お話が散漫な上、嫌なパターンになる予感もありますが、期待値は継続しつつ、まだまだシリーズは続きます。