野

ソナチネの野のネタバレレビュー・内容・結末

ソナチネ(1993年製作の映画)
4.0

このレビューはネタバレを含みます

前から見たいと思っていた映画だった。
ストーリー自体は主人公のヤクザが騙されて沖縄に行き、そこでのほほんと暮らしてだけど、ヤクザ故に仲間が殺されたりしながら最後には主人公が自殺するという、そこまですごいというようなストーリーではない。
だが、それでいい。

この映画はストーリーで見せる映画ではなく、瞬間瞬間の心象的なシーンを繋ぎ合わせたような映画である。故に、映画は北野の心理のように脈略がなく何故だか疲れ果てたような印象をもたらすことができる。これは北野武の実感がこもって初めて表現できる映像である。北野の心が私に真っ直ぐ向かってくる故に、観賞後、北野の鬱が私に憑依する。そんな映画である。

この映画にはたくさんいいところがある。

まず色である。
キタノブルーと呼ばれる全体的に青みがかった画面は、ピカソの青の時代を彷彿とさせる。その青には不思議と孤独ややるせなさが投影されているように感じる。

そして構図である。
海、砂浜、草原、の単純な幾何学で表される画面は美しい構図をしており、キタノブルーも相まって、ただ、絵としても成立している。構図に複雑なものを入れないことでの雑さがなく、すっきりとした印象を受ける。

次に音である。
音が凄くいい、銃声だけで孤独が伝わるような、的確な音選びをしている。車を閉じる時でも普通に録音しておけば大きい音で閉じる音がなるのだが、そこをしっかりと抑えられている。あくまで、必要最低限の音を貫いているのだろう。そのようなミニマムが全体的な孤独をすっきりと表している。

演技もいい。
北野武が監督とだけあり、作品を深く理解してそうな演技をする。最早、北野にとっては自分の中にある鬱を取り出して表出させた、ただそれだけのことだったのかもしれない。そう感じるほどにリアリティのある演技だった。女優は美しく、北野と同じく洒脱したような雰囲気を纏っていてこれまた上手いと感じた。衣装のヨウジヤマモトのシャツも甘美な雰囲気が出ていてよかった。

全体的に、この映画は詩であった。北野の無意識を映画に表したような、シュルレアリスムの希釈版のような。そのような完全に商業主義とは離れた、作品制作であったと思う。
決して、気持ちよくなるための消費型映画ではない。観た人の心に深く跡を残していくような力のある映画であった。
野