あーさん

運動靴と赤い金魚のあーさんのレビュー・感想・評価

運動靴と赤い金魚(1997年製作の映画)
3.9
映画で巡る世界紀行〜②イラン編

今作は昔々、映画好きの妹から薦められていたけれど、なかなか観る機会がなかったもの。
尺が短く(→これ大事)子どもの出てくる作品が観たくて。

おそらく初イラン映画。
クレジットがペルシア語なのが新鮮。。
文字は右から左に書くのね。

とある貧しい家庭の兄妹、アリ(ミル=ファロク・ハシェミアン)とザーラ(バハレ・セッデキ)。その下には赤ん坊がいる。
父親(アミル・ナージ)の稼ぎは悪く、おまけに母親(フェレシュテ・サラバンディ)は腰を痛めている。。

まだ小さな子ども達がお手伝いという類でなく、大人の手助けを当たり前のようにしている。
お使いや子守、ジャガイモの皮むきなどの炊事は毎日の日課、遊びに行くこともままならない。
父親の言う”9歳はもう大人” というセリフに驚く。
いやいや、まだ子どもでは…。

貧しいということは何と悲しいのだろう。
子どもの力ではどうしようもできない。。
そんな時、更に度重なる不運に情けない、惨めな気持ちにならざるを得ないのだが、所々キラキラと輝く子ども達の笑顔のシーンがあり、束の間ホッとする。
子どもって、どんな時でも楽しいことを見つけて笑える強さを持っている。
アリとザーラの吸い込まれるような澄んだ瞳に救われる。

そして、貧しくとも自分よりももっと大変な人の為に我慢したり、助けてあげたり、人々の助け合いの精神に心が洗われる。
当たり前のように、近隣のお年寄りに夕食のスープを差し入れてあげる心遣い。
履いていた運動靴が溝に落ちてザーラが泣いていたら、すぐに一緒に探して拾ってくれるお年寄り。子どもがお年寄りを、お年寄りが子どもを、自然に労わる様子に心が和む。
イスラムの信仰心は度を越すと争いの種になったりするが、人々の暮らしの中にとても深く根付いているものなのだと改めて知る。

アリは自分の過失で妹の靴をなくしてしまうが、親にそのことを言えずに苦肉の策を考える。。
走って、走って…。
兄妹はいつも走っている。
そして、アリが運動靴を何とか得ようと一生懸命努力する姿に胸を打たれるのだ。。

ラストは…
散々ハラハラした後に、胸を撫で下ろす自分がいた。。

今作には、家族や隣人を慈しむ心を忘れない人々の営みがあり、
貧しさに負けず強く、野太く、ささやかな喜びを糧に生きる美しさがあった。

心の豊かさと物質の豊かさと…どちらが幸せなのかな、とふと考えてしまった。。




第21回(1997)
モントリオール世界映画祭
グランプリ含む4部門受賞

第71回(1997)
アカデミー賞外国語映画賞
ノミネート


*clipしている作品の国がバラエティに富んでいることに気づき、にわかに世界紀行を思いついた次第。前回に遡って始めたので、今作が第2回になっています。
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