優しいアロエ

華氏451の優しいアロエのレビュー・感想・評価

華氏451(1966年製作の映画)
3.5
 1960年代半ば、ゴダールは『アルファビル』、トリュフォーは『華氏451』を発表。すでにヌーヴェルヴァーグを牽引する存在となっていた2人の俊英は、一旦それぞれの作家性から離れ、全体主義への危惧と批判をSFというジャンルに託した。
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 「華氏451」とは、本が燃えはじめる温度。本作の世界では、本は民衆を不安にさせて反社会分子を生む危険なメディアとみなされ、一切の所持が許されていないのである。

 近未来が舞台ではあるが、家や車のディテールがそこまで未来的な造形に突き抜けないのは、かつてナチスが推し進めた全体主義的な政策をこのディストピアに重ねているという意味で過去を念頭に置いた作品でもあるからだろうか。(あるいは、予算の都合やトリュフォー自身がSFを嫌っていたこともあるかもしれない)

 ただ、物語は説教くささの真ん中を進むし、主人公の行動もバカだったりして、そこまで素晴らしい作品だとは思えなかった。一方『アルファビル』は、監視社会の恐ろしさを十二分に感じられたし、普通にパリの街並みで撮っていながら別の時代・場所を思わせる異様な雰囲気があったから、それと比べても本作は物足りなさが残った。
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