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おかえりのshxtpieのレビュー・感想・評価

おかえり(1996年製作の映画)
3.5
とくに後半、寺島進が上村美穂を抱擁する長回しが圧巻で、あのワンカットでぜんぶもっていかれた。繰り返される窓辺のショットや、丘のロングショットもすばらしい。画面の中央に柱を置いたシーン、虫かごにフォーカスしたカットも忘れがたい。とにかく、つねにローアングルなのだけれど、それは撮影のベテランである古谷伸の意思によるものだったと篠崎誠は語る。 1990 年代の東京郊外(京王線沿線)をローアングル、しかもスタンダードサイズで切り取った画は、なにか特定の時間と空間から自由な、映画的な時空間が立ち上がる。一部、ベートーベンの「月光」がつかわれる以外は、まったく音楽はなく、かわりにさまざまなノイズや生活音、子どもの声などが強調されており、冒頭のタイピング音やカセットテープが回る音などの刺すような鋭さも、『おかえり』に独特な質感をあたえている。いっぽう上村が車を奪取して逃走するシークエンスは、長くてアンバランスだと感じてしまった。あそこには、篠崎の「車を撮りたい」という欲望がにじみでてしまっている。
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