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ウィッカーマンのhorahukiのレビュー・感想・評価

ウィッカーマン(2006年製作の映画)
3.6
過去を克服することの難しさ

ロビンハーディ監督『ウィッカーマン』のリメイク作。ハーディ監督も、オリジナルで重要な役を演じたクリストファーリーも本作には否定的な意見を持ってるようですが、ライトなサスペンスホラーとしては結構面白かったと思う。

ただ、オリジナルの良さを完全に殺してまで獲得しなければならないライトさだったのかは疑問。オリジナルがなぜ怖いのかを履き違えたようにしか思えない。ラストはオリジナルをそのまま採用しているけど、このキバを抜かれたような改変が施された内容でオリジナルと真正面から勝負なんて出来るはずがないよね。

ニコラスケイジ演じる主人公がとにかく真面目であることを淡々と語るプロローグから「子どもを救えなかった」というトラウマを植え付け、サマーズアイルへと向かわせることで「克服の欲求」を滲ませる流れは良かったけど、やっぱりあの事故はそれほど噛み合ってるようには思えなかった。

そんな主人公にとってのトラウマ克服の場所として再設定された本作のサマーズアイルは、オリジナルで描かれたような人生の揺らぎへの恐怖はそれほど感じられないのだけど、人が立ち直るための「克服への欲求」を挫くための障害として島民たちとのズレを利用したのは面白いなって思った。

キーパーソンとして登場する元婚約者の存在はオリジナルからの改変部分の中でも重要な箇所。未来へと歩を進めるための「克服への欲求」に基づいた少女の捜索。その行動が、未来を向いたものであると自分では自覚・確信しつつも、その実、無自覚のうちに過去へ過去へと逆戻りし、呪縛へと囚われていくことにいつの間にかすり替わってしまう。何かに直向きに進んでいくことが人を盲目にし、重要なところに目を向かなくする。立ち直るという全面的に正しいと思われる行為が孕む罠。装飾された綺麗事の裏にあるトゲ。

サマーズアイルの行きすぎた女尊男卑な世界観も、多くは語られないけれど、(蜂であることを含めて)結局は主人公の過去へとお話を進めていく上での象徴性を重視した舞台なのだろうし、表面的に捉えたとしても端々から透けて見える異常なまでのおぞましさにはゾクゾクする。あれは奴隷どころじゃないよね…😅

冒頭の事故はやっぱりそこまで噛み合ってるようには思えないんだけど、乗車してたのが母子であり、それが主人公の過去のトラウマを誘発&上乗せしていくというのは、この舞台設定と合わさることで意味を見出せるから、やり過ぎなだけでそんなに悪くはなかったのかも。

上から叩き落とすオリジナルと、下から上へ這い上がろうと必死になる人の後ろ髪を引き、そのまま引き摺り下ろす本作。そう思うと本作も結構怖いよね…。そんでこちらも『ミッドサマー』と共通項が多くて、オリジナルにはなくて本作にある要素を『ミッドサマー』が引き継いでるというのも面白い。相変わらずやってることは真逆だけど…。冒頭ではボロクソ書いたけど、私は本作結構好きです👍
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