B5版

ノートルダムの鐘のB5版のレビュー・感想・評価

ノートルダムの鐘(1996年製作の映画)
5.0
オリジナルが至高派。
だけど、劇団四季のノートルダムの鐘も最高。
一般的なディズニー作品のトーンとは異なりダークな雰囲気が濃いが、傑作であることは間違い無いです。

CGとセル画をうまく調和させた奥行きのあるダイナミックな絵と美しい細部が織りなす印象深い絵。
言わずと知れた天才アラン・メンケンが手がける名曲。
ディズニー冒険期に生み出した傑作ですよね。もうディズニーアニメ作品で一番好き。


カジモドは異形の姿を生まれながらに背負い、ガーゴイルだけを友人として孤独に生きる青年。
彼は動物に愛され、育ての親に縁がなく、献身を美徳とし、ヴィランに高い塔に閉じ込められながら恋を夢見る存在で、実はこれまでのディズニープリンセス要素を全て持ってる。
私がこの作品がこれまでのディズニー像を覆したすごい作品だと思うのは、ここなんですよね。

主人公は恋をする。
ヒロインのエスメラルダはカジモドに歩み寄るが、それは恋愛の情では無い。
カジモドは恋心を彼女に伝えないので、当たり前にそれは伝わらず、結局ヒロインは他の男と結ばれる。
選ばれなかったカジモドは獲得できなかった恋の苦しみから何もかも逃れようとするが、最後には葛藤を乗り越えて大事な人を守りに向かう。

カジモトがディズニープリンセスの概念を持った男であることがわかれば、
この「選ばれるのをただ待つ囚われのヒロイン」像をディズニーにこの頃にはとっくに卒業してるのがわかるし、
そして1996年にすでに「愛の成就が最高の幸福」という概念を否定していることが明白だ。
異性と出会って愛し合い幸せに暮らしました以外の価値観をこんな早く作品に内包していたのに、最近急にポリコレがどうたら槍玉にあげられるのは悲しい…

あとやっぱこの作品は悪役がいい。
フロロー判事のコミカルさや可愛げが一切ないリアリティのある醜悪さはディズニーヴィランの中でも異色だと思う。
フロローにはヴィランとしての矜持なんてないので愚行の自覚もなく、幼稚な自己愛と歪んだ支配欲を振り回した末、街を火の海にする。
彼の言い訳を並べて欲に溺れる姿は醜く浅ましく愚かで人間の生々しさを感じる姿は、悪を自覚し正義を挫くことを愉悦とし孤高の淵で斃れる他のディズニーヴィランと性質が違う。
でもだからこそ、自分を悪と自覚しないからこそ、心で感じた矛盾を苦悩する"地獄の炎"は名曲なんだろう。
全部名曲だけど。
ちはみに原作では彼は大助祭で、カトリックとして厳格な神に仕え、あらゆる欲望を抑え込んだ成れの果てにエスメラルダに恋をするので事態は一層深刻だ。
こうした違いはアニメと四季でより顕著なので両方感じるのも良き。
ここに更に映画実写化来たりしないかしら。
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