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かくも長き不在のRのレビュー・感想・評価

かくも長き不在(1960年製作の映画)
4.5
この映画を現代はじめて見る人は、事前にどんな話になるか知っておいた方が良いかもと思った。今回初めて見て、前半がちょっとつまらないなーねむいなーと思ってたら途中寝てもて、目覚めて途中から見始めたら、中盤からはものすごくドラマチック…表面上は何も起こってないけど、主人公の心の動きが激しくて吸い込まれる。で、後半に入る前に、話の大体の流れが分かったところで、もっかい最初に戻って見直すと、どのシーンも意味がクッキリして非常に面白い! という感じやったので、前知識として入れといたほうがいいなと思うのが、主人公のテレーズはカフェの店長で、無表情で浮かない40位の女。舞台はパリの郊外。戦争の傷からだいぶ回復はしてきてるけど、まだ跡が消えきってない感じ。ラジオから聞こえてるのはツールドフランスの中継。これは字幕に出てこないのでフランス語を聴き取れないと分からないかも。テレーズには彼氏がいて、仲は良さそうだけど、テレーズさん、どうも元気がない。何故だろう。パリはこれからバカンスの時期で、人がどんどん町から出て行ってる、町はまもなくほぼ空っぽになるだろう。こんくらいかな。ここからはミステリー。テレーズの店の前を、歌を歌いながら通り過ぎる浮浪者がひとり。毎朝聞こえてくる歌声。ある日、テレーズの横を彼が通り過ぎるとき、テレーズは顔色を変える。誰なのだろう。テレーズは何とか彼を引き止めて、自分のカフェに入れようとする。浮浪者はどうやら記憶喪失で、何も覚えていないらしい。テレーズは浮浪者の後をつけ、川のそばの小屋で彼が寝起きするのをじっと見守る。彼は一体何者なのか。セリフがほとんどない中盤だが、少しずつ、少しずつ、テレーズの浮浪者への関心の理由が分かってくる。でも、人違いの可能性もある。後半はそれを確かめようとするテレーズの試みが展開する。本作が恋愛ドラマでありながら非常にミステリアスでスリリングなのは、記憶を失った浮浪者の記憶をテレーズが蘇らせることができるのか?って問題と、果たして浮浪者はほんとにテレーズが思ってる人なのだろうか?って謎があるからであり、そこに加わるのが、テレーズの深い深い喪失の悲しみと再会の喜び、そして、失われた時間の切々たる重みなのだ。それが全シーンから、しみじみと、しみじみと、心に染み込んでくる。そして、彼らの経験する恋愛悲劇は、まさに戦争の残した消すことのできない傷跡でもある、という重層的な意味と魅力を帯びた作品で、演出の丁寧さ、美しさ等、見事としか言いようがない。くたびれたおばさんだったテレーズが女の感情を吹き返し、心に喜びと希望が湧き出ずる分だけ、裏返しの悲哀が何倍にもなってしまうのを見てるのは、ほんとつらかった。そして最後に彼がとる行動には、胸が潰れるかと思った。つらすぎる。けど、ほんとに美しくて、深い、愛の映画でした。待ってる間の気持ちが、分かりすぎてマジうううううってなったわー。つ、つらい。つらすぎや。ううううう。
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