平野レミゼラブル

沖縄やくざ戦争の平野レミゼラブルのネタバレレビュー・内容・結末

沖縄やくざ戦争(1976年製作の映画)
4.0

このレビューはネタバレを含みます

【一人残らず鏖殺(タックル)してやらァ!!千葉真一の暴の嵐が吹き荒れる!!】
1973年の『仁義なき戦い』以降、実録ヤクザ映画路線が当たりに当たりまくり、不良性感度を大分高めていった東映が送り出す第4次沖縄抗争をモチーフにしたヤクザ映画。封切り時にも未だ抗争が続いていたってんだから剛毅というか、どうかしているというか……
沖縄と言えば常夏の楽園ということで、あのちゅら海にもヤクザがいたのか……と一瞬思ってしまいますが、考えてみれば戦争終結後に米軍に占領されてその配給頼りの生活が続いていたとなれば、そこで台頭するのはヤクザ者なワケで……米軍基地から物資を盗み出して売りさばく「戦果アギャー」と呼ばれるゴロツキどもが横行し、彼らとの密貿易をシノギにする本土のヤクザが現れるのも自然な話でした。
そして、この沖縄抗争の中心になるのは空手道場を母体として主に米兵の横暴から身を護る為の用心棒をシノギとする「那覇派」であり、この組織の内部でのイザコザが発展していったのが第3次までのあらまし。
そして1970年代に巻き起こる第4次というのが、沖縄の日本復帰が現実味を帯びてきたことで遂に本格的に沖縄進出を目論みだした本土ヤクザとの対外戦争なのです。第3次まで一枚岩ではなかった「那覇派」派生組織の数々も、本土に対抗するために一致団結して「旭琉会」(作中では「琉盛会」)を設立。本土から迫る山口組と抗争になるワケですが、まあ当然内部抗争も止むことはなく、事態はどんどん混沌を極めていくのです。

沖縄が舞台!と言っても、この辺りの内輪揉めと、対外抗争の連続は本土ヤクザとさして変わりはなく、そしてキャストも松方弘樹、千葉真一、渡瀬恒彦、梅宮辰夫、室田日出男、成田三樹夫etc…といつもの東映ヤクザメンバーなのであまり変わり映えしません。
沖縄らしい風景にしても、協力を取り付けた琉球映画貿易との間で規約違反があったことで先方を怒らせてしまったため、ロケ自体が出来なくなってしまったという。当時、まだそこまで売れてなかった渡瀬恒彦のみを沖縄に行かせてゲリラ的に撮影したシーンを除いて(昭和のコンプライアンスは本当にどうかしている…)、全編が内地撮影なのです。
一応、特撮や合成で沖縄っぽさを出そうとしてはいるのですが、終盤の海のシーンとかそんなに海が綺麗じゃないので台無しである。メンツも前述通り広島で見慣れた面々だし、彼らも沖縄方言が難しすぎたからガン無視して標準語で喋るし……

だからこそ随所に沖縄っぽさが出てると嬉しくなります。例えば凶悪なヤクザの面々が一同に会して飲んでいる瓶がビールじゃなくてコーラなんですね。なんかこの時点でちょっと可愛く思えてしまう。
そして、あまり発せられない沖縄方言の中で例外的に頻発されるのが「タックルせぇ!」という言葉。えっタックル!?タックルナンデ!?って思ったら「叩き殺せ!」が訛って「たっくるせ!」に聞こえているとのこと。これがほぼ唯一の沖縄方言なのですが、元々の意味が物騒極まりなくても、事あるごとに「タックルせェ!」「タックルせぃ!」「タックル!」と発せられると妙におかしみを感じてしまいます。そんな感じで『仁義なき戦い』よりも全体的に可愛らしい印象を受けます。

まあ、内容に関しては勿論ちっとも可愛くないんですが……
まず冒頭から賑わっている飲み屋に千葉真一演じる国頭組組長・国頭正剛が乱入して、極悪非道の暗黒カラテを駆使して店中を滅茶苦茶に破壊していくサマがじっくり描かれますからね……開始早々に暴の嵐を吹き荒らすな。
もうね、登場して早々に「コォォォー……破ァッ!!」と素手で瓶やテーブルを破壊しまくり、人間をもタコ殴りにしていく千葉の姿で大爆笑なんですよ。千葉も空手有段者だから動きがキレキレで、グラサンにタンクトップにアーミーパンツという奇怪な風貌も相俟って始まりから瞬間最大風速を記録。松方弘樹演じる兄弟分の中里英雄が止めに入るまで、ノンストップで暴れ続けるのが凄まじい。

どうにも国頭と中里は旧知の仲であり、互いに心を許し合っているらしいです。しかし、国頭がバリバリのタカ派であるのに対して、中里はハト派と思想は正反対。そのため、構成員同士の仲は最悪で、事あるごとに揉め合っています。
中里自身もかつて国頭の為に臭いメシを食らったにも関わらず、出所してからも国頭に振り回されまくる苦労人なのですが、それでも堪えに堪え、むしろ舎弟が国頭にカチコミしようとするもんならブチギレるというように2人の友誼は強固のように思えます。

ただし、その後も国頭の暴走は止まることはありません。シマを荒らした中里組の構成員のち〇ぽを切断したり、琉盛会としては協調路線で行こうとしている本土のヤクザの前でカラテの演武を見せて挑発したり、あまつさえそのヤクザを何回も前進とバックを繰り返す轢き逃げオーバーキルをかましてブチ殺したりのハチャメチャっぷり。
しかも殺害したヤクザが本土の大物だったということで、琉盛会のお偉いさんは「戦争になるかもしれんぞ」と国頭に詰め寄ります。しかし、そこで国頭の発した言葉というのが「戦争だぁいすき💕(満面の笑みで)」なんですからおお…もう……

『仁義なき戦い 広島死闘篇』で演じた大友勝利も大概でしたが、こちらはそれに輪をかけて大暴れする上に、事あるごとに必殺の暗黒カラテが発揮されるのでインパクトが強すぎます。千葉の演技があまりに過剰すぎるんですが、彼は暴れに暴れる程に面白くなる俳優なんでこれでいいと言い切れます。

まあそんな暴の嵐がいつまでも許されるワケはなく、本土と琉盛会の意向を受け、そして国頭の後始末をしてきたのに当の国頭にキレられるという不条理と度重なるすれ違いによって決意を固めた中里による国頭暗殺計画が始動。
しかし、ただでは死なぬのが我らが国頭…というよりサニー千葉。
キャバレーに押し掛けてきた中里の舎弟2人から銃弾をドテッ腹に何発か喰らっても構わず殴りかかりにくるゾンビっぷりを見せつけます。
舎弟も恐怖のままさらに何発も銃弾をブチ込み、さしもの千葉も流石にこれには堪らずブッ倒れますが、倒れる際の勢いがありすぎて反動で綺麗に脚をピーンと伸ばして逆立ちしながら絶命するんだから唖然とするしかない。お……お前……ッ!最期の最期までやりたい放題かよ!?爪痕しか遺せないのか!?


この中盤の千葉真一の逆立ち絶命が本作のハイライトであり、暴の嵐の主が死んだとあれば、あとはもうトーンダウンするかな……と思いきや、そうはいかなかったのが『沖縄やくざ戦争』。どういうワケか、国頭の狂気はハト派だった中里に受け継がれてしまい、以降は松方弘樹が千葉の代わりに暴の嵐を吹き荒らしていく代替わりが起きてしまうのです。
その暴れっぷりも単純に規模が大きくなっており、ジープによるカーチェイスに白昼堂々銃をぶっ放しての派手な暗殺、差し入れの弁当の底に銃を隠すという大胆にも程がある脱獄等々…やることなすこと全てがエンターテイメントのそれなのです。
クライマックスにもなると中里を冷遇した琉盛会と本土のヤクザが同乗するクルーザー目掛けてモーターボートに乗った中里と舎弟の宏(渡瀬恒彦)が突撃し、マシンガンをぶっ放して本土の梅宮辰夫を除いて皆殺しにして終わるのですからとんでもない。
終盤のそれはタイトルの『戦争』そのものであるという滅茶苦茶さなのです。

……ただ、ここまでやってしまうとこれはまかり間違っても“実録”ヤクザ映画ではないんですよね。確かに前半で暴の嵐を吹き荒らした千葉の穴を埋めるが如き後半の暴の嵐の勢いも楽しいものではあるんですが、流石に後半の暴の質は求めていたソレとはかけ離れてしまいました。
中里が突如暴れ出す動機自体は「国頭を殺す際に上に出した条件を悉く無視された」、「それどころか逆に自分の組を排除する方向に情勢が傾きだした」といったようにちゃんとしてはいるのですが、それにしても「やりすぎ」の一言に尽きます。

何て言うんでしょうかね……例えるなら『ランボー』の1作目で、スタローンが2作目以降の『怒りの~』路線で警官の悉くを銃殺しまくって決着つけちゃったような違和感が本作にはあるんですよ。
確かに中里に不義理を働いたムカつくヤクザはほぼ全員死滅しましたし、正直この展開にスカッとする部分がないとは言えません。ただ、その代わりに『仁義なき戦い』シリーズにあった、どうしようもない世の中への倦厭感や、個人では変革できない虚しさとかの余韻が彼方に吹き飛んでしまいました。
『ランボー』1作目でもカーチェイス部分でパトカーがジャンプしたりと、娯楽路線に振り切れそうな危うさが随所でありましたが、決してそうはならず、ランボーの報復は成されぬまま硬派に終わらせたのに対して、『沖縄やくざ戦争』は同じようにカーチェイス部分でジープがジャンプした勢いそのままに硬派路線をなぎ倒し、娯楽路線のまま報復を貫徹して突っ切ってしまったのです。

まあ冒頭から国頭が暗黒カラテを披露している時点で娯楽路線だったろと言われればそれまでなんですが、それでも中里はその対極に位置していた存在な筈で(ちょうど『広島死闘篇』の千葉真一に対する北大路欣也の役割に近しい)、実際国頭が中里に詫びを入れて仲直りしようとした最中に暗殺されるすれ違いなどには硬派路線の情感があったんですよ。
ただ、直後によくわからないままに千葉因子を継いでしまった松方弘樹が大暴れして物語を無理矢理進めてしまうため困惑するしかないのです。テンションをブチ上げたまま進めるなら、進めるに足る理由みたいなものを作中で示してくれないと乗り切れないというのが「やりすぎ」感の正体ですかね……

とはいえ、この異常なまでのテンションが楽しいというのは事実でもあり、特にカラテ一本で後半の戦争そのもののテンションに喰らい付いていける千葉真一のテンションの高さは怪演としか言いようがなく、一見の価値があるためオススメです。千葉真一が倒立して死ぬところまでで良いから観て!ってヤツですよ。

オススメ!