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幸福(しあわせ)のKKMXのレビュー・感想・評価

幸福(しあわせ)(1964年製作の映画)
4.0
 ギャ〜!噂通りのド畜生ガーエー!こりゃヒデェ!(よい意味で)

 流れとは関係なく見ると一見幸福なラストですが、流れを追って観るとこれほどおぞましいオチはないです。マジか!と戦慄するレベル。これほど他者の心を踏みにじるゲロ味のラストはお目にかかれません。ゲロすぎる。


 しかし、さらに恐るべきことに、このタイトルは皮肉でも何でもない!間違いなく、主人公のゲロ男は幸せなんですもの。普通ならば罪悪感でのたうちまわるような悲劇的な事件を経験しても、この男の脳内では罪悪感ゼロ!だから何事もなく幸せな日々を過ごしているのです。コイツが引き金となって起きる事態に対して、まともな人間ならば『マンチェスター・バイ・ザ・シー』ばりに苦悩しますよ普通。

 ゲロ男には葛藤がありません。コイツは一見感じのいいパパなんですが、出鱈目に幼いんですよ。
 妻を愛しているが、新たに恋をしてしまう。まぁないことではない。普通ならば葛藤するはず。自分の心を殺して妻との関係を守ったり、関係を持ちつつなんとか誤魔化すとかするはず。
 しかしコイツはなんも考えない!普通に妻に不倫を告白しやがるし、「僕は幸せだ」とか抜かすし!
 こいつはくせえッー!ゲロ以下の臭いがプンプンするぜッーーッ!


 人は人の間で生きる社会的な生物です。なので、欲望を抑制しながら、他者に配慮して生きる必要があります。配慮するのは、自分も配慮される立場でもあるからです。なので、さまざまな場面で人は葛藤する必要があります。欲望や感情を抱えて、時として耐えなければ社会の中で生きる人間としてアウトです。
 この男は本当にアウト。ここまで幼く、他者の気持ちを慮れず、2人を同時に愛することに対して完全に無頓着な人間は、人間というよりも動物です。

 コイツ、よく「僕は正直だ」と抜かします。これは動物的な正直ですね。自分を生きる以前のレベル。人間界ではこんな正直まかり通りません。
 なので、葛藤しない人間は周囲に負をまき散らしますね。幸せなのはテメーの脳内だけだ。

 あと、葛藤を抱えられないのはゲロ男だけではなくおそらく妻もです。悲劇を背負った彼女にこの言葉は酷だと思いますが。彼女の決断は偶発的なものかもしれないので推し量るしかないですが、もう少し痛みや怒り、絶望を抱えることが必要だと感じました。少なくとも、ゲロ男のクソ告白を聞いて、許せないにも関わらず普通に受け入れてしまったのは彼女の弱さだ。意外とヴァルダは妻に対しても鋭い矛先を向けているようにも感じました。
 とにかく、どいつもこいつも行動し過ぎ!もう少し痛みや欲望を自分の中に抱えろよ!


 本作を観ると、人間には成長と成熟が不可欠であることがよ〜くわかりました。本当の意味で幼いことがこれほど恐ろしいとは…成長を怠ると自分がツケを払うものと思っていましたが、最悪なパターンだと他者に甚大な被害をもたらすように感じました。本作でもっとも被害を被ったのは妻でしょうが、長い目で見ると2人のチビっ子たちかも。
 この一見幸せなラストですが、2人のチビっ子がやがて思春期になり、家族の秘密を知ったとき、果たして冷静でいられるか。きっと父親の血を許せず、手首切りまくるでしょうね。

 『5時から7時までのクレオ』にて、人間賛歌を高らかに歌い上げたヴァルダ監督の、真逆といえる超皮肉に満ちた1本でありました。ゲロ〜😵
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