せーじ

ゴジラのせーじのレビュー・感想・評価

ゴジラ(1954年製作の映画)
4.5
210本目。
「ひろしま」評を書いている時に、Wikipediaで一部の楽曲と演出が流用されていることを知り、鑑賞を決意。レンタルしてきました。

すごい…
鑑賞後しばらく映画そのものの迫力に飲まれてしまい、放心してしまった。
圧倒的。国産特撮映画の原点にして頂点。エンターテインメントとメッセージ性が高い次元で両立している傑作だと思う。

海の波間から、山の稜線から、異形の何かが唐突に顔を出す衝撃。どんな武器を使っても効かずに街を焼き尽くし破壊し尽くす恐怖。そしてようやく復興した立派な東京の街並みが、放射能の火の海になるという絶望感。そこで逃げ遅れた母子にクローズアップして「もうすぐお父ちゃまのところに行くのよ…」という悲しみ。野戦病院の様な避難所でこと切れた母親を泣きながら見送るしかない幼い子供の無力さ…
本作のゴジラは「南の海からやってくる存在」であることや「貨物船が沈没されるところから始まる」描写などから読み解くと「水爆に対する恐怖の象徴」として描かれているというのは一目瞭然なのだが、誰がどう見ても、この作品が制作された10年ほど前にこの国で起きた事実を思い出さずにはいられない作りになっていて、胸が締めつけられてしまう。そりゃあ和光や松坂屋が怒るのも致し方が無いと思う。しかも当時は、日米安保条約が成立する前であるうえ、「冷戦」という脅威が重くのしかかっていた時代だ。そしてそれに対抗できる手段は、ひとりの人間が発明した新たな化学兵器だったという、皮肉さが存分に利いている作りになっているというのも上手い。また、政治家がゴジラの脅威を隠そうとしたり、それを反対する議員が女性議員だったりと、当時の世相を窺い知ることができる描写も興味深かったし、平和を祈る女学生たちの歌声を聴いて、芹沢博士が兵器の使用を決意するというくだりも、とても美しいプロットだと思った。
それと、モノクロの映画だからというのもあるのかもしれないが、実写と特撮の差があまり感じられないというか、違和感なくシームレスに撮られていると感じた。おそらくカメラアングルなど、撮り方を工夫しているからなのだと思うが、想像していた以上にミニチュアの街並がリアルで、迫力があったように思う(特撮のシーンを夜に設定しているというのも工夫の一つなのだろうなと思う)。

それにしても1954年という年は、奇跡の様な年だったと思う。何故なら、本作の他にもあの「七人の侍」や「二十四の瞳」が、ほぼ同時期に映画館で公開されていたのだから。当時の人々がそれらを観て、どのような感想を抱いたのかがとても気になってしまう。

単なるディザスタームービーや怪獣特撮映画とは違う、メッセージ性が深く、しかも的確に刻まれているこの作品は「ひろしま」や「原爆の子」などと共に観るべき作品だと思いました。
もちろん、今につづくゴジラ映画の始祖として観比べてみるのもいいと思います。
ぜひぜひ。
せーじ

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