B5版

十二人の怒れる男のB5版のレビュー・感想・評価

十二人の怒れる男(1957年製作の映画)
4.2
法廷劇と聴けばなんだか面白い予感がする、それはきっとこの映画がきっかけだ。
非行少年の尊属殺人の罪について、全員一致の結論が出るまでの、有罪か無罪をひたすら話し合う本作。
仮定の話をするにあたり、回想などの分かりやすい描写は一切ない。
誰も本当の事など知らないからだ。
じわじわと盤面がひっくり返るどんでん返しの快感を味わいつつも、これは結局グレーの話なのだ。
法廷劇、と銘を打ったが遂に本当の白黒はつけずに、全ては当事者のみぞ知る、で幕を閉じる本作は実は民主主義を語るドラマが主軸である。

初っ端、ある陪審員の(有罪判決は死刑という前置きがあるにも関わらず)簡単な案件でよかった、という台詞に驚かされる。
言葉の是非はともかくとして、当時ですでにあの国は国民の一人一人が民主主義の体現者であることを受け入れてるのだ。
政に関わる覚悟(と呼ぶには少し軽薄な気もする台詞だけど)、令和日本でも根付かせたい。

本作初見は子供の頃でした。
感想は12人を敵と味方に区別した勧善懲悪もの。
無罪派を応援しては、論破されてく面々にザマァ見ろ!とカタルシスを覚えたが、今は名前のない登場人物一人一人に自分をみてしまう。
誰でも自分の出自や世の中に物申したいことがある。
けど表立って言うほどじゃない。それなりの生活もある、ささやかな楽しみもある。
ささくれ立った心を奮い起こして他者のためにより良い選択を、世の風潮に逆らって声を上げること、それは決して簡単じゃない。歳を経てよりそのことを強く感じる。
人が人を裁くことに真剣に向き合う過程で、己の内面ときちんと対峙して負けを認めた人を指差す権利が誰にある?

多忙な日常で見失わないようにしたい指標が散りばめられた、素晴らしい映画だ。
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