このレビューはネタバレを含みます
1959年制作、メルヴィル・シェイヴルソン監督による音楽映画で1920年代にコルネットの名手として名を馳せたレッド・ニコルズの半生を描いた名作である。
古き良き時代の音楽映画では「グレン・ミラー物語」(55年)や「ベニイ・グッドマン物語」(56年)などノスタルジックでウォーマーな同じトーンと風味を持った映画があるが、本編は娘の病気と障害に音楽を捨て向き合っていくというシリアスなヒューマンドラマが付加されている分映画としての深みは一段上にあると言っていい。
田舎から大都会ニューヨークへ出て来て楽団に入ってからの田舎者丸出しのドタバタ劇は少しやり過ぎ感があるものの中盤から終盤にかけて娘の病気を機に家族愛に目覚めていく展開は締まりが出て深みも増し、ラストシーンに至ってはグッと琴線に触れるものとなっている。
また、彼のバンド「ザ・ファイブ・ペニーズ」にはグレン・ミラーやジミー・ドーシーが若手でいたり、闇酒場ではルイ・アームストロングが本人役で登場し、ダニー・ケイ演ずるレッド・ニコルズと掛け合う聖者の行進は大いに楽しい。
コルネットの音は本物のレッド・ニコルズが吹いている。
私も趣味としての音楽に携わっているが、実に音楽という奴はジャンルに関係なく、音響アンサンブルの妙に一旦ハマると麻薬的に人を惹きつけて止まないものがあるように思う。
聴くにつけても演るにつけてもそんなところがある。
脳の活性化やストレスの解放という側面もあるだろうが、一旦ハマると結構なものを犠牲にしても厭わない。
この主人公のニコルズもバンドの演奏活動にかまけて家庭をあまり顧みなくなる。
そして愛娘を演奏巡業の為に寄宿舎に入れ、たまに会える機会も潰したりする様になる。
娘は父親との再会と団欒を都度楽しみにしているのに寂しい裏切りが続く。
そして雨のクリスマスの日、外にはずぶ濡れで待ち続ける娘のドロシー(スーザン・ゴードン→チューズデイ・ウエルド)の姿があった。
しかしそれが原因でドロシーは小児マヒになってしまう。
医者は命も絶望的だと診断するが奇跡的に一命はとりとめる。だが両足に重度の障害が残ることになる。
このことでニコルズは猛省し、サンフランシスコのゴールデンブリッジから父から譲り受けた大切なコルネットを川に投げ込み音楽との決別を決意する。
バンドの若手だった連中も育ち、各自が人気バンドのバンマスに成長していく中、ニコルズは造船所の職工として家族を養い、娘の看護に専念する日々が続いた。
妻のボビー(バーバラ・ベル・ゲデス)はかつてのミュージシャン仲間達とニコルズにカンバックを促すが演奏技術の劣化もあり彼は諦めの境地にいた。
そんな時、自分の為に音楽人生を絶ったことが分かるにつれ、父との軋轢が癒えはじめたドロシーは自暴自棄に陥っていた父を叱咤激励し、もう一度音楽に向かわせようとする。
一念発起してコルネットを手に猛練習を重ね「新生ザ・ファイブ・ペニーズ」としてカンバックのステージに立つが客席はボビーとドロシーの他閑散としていた。
がっかりして寂しく演奏するニコルズであったがそこにルイ・アームストロングやグレン・ミラーなどかつてのミュージシャン仲間が大勢の観客を連れてやって来たのである。そしてボビーもステージに加わる。
そしてボビーはニコルズに、
「あなたを驚かすことがあるの」
と言って客席のドロシーに合図をする。
ドロシーは自分の足でステージにいるニコルズの所までゆっくり歩き始める。
父ニコルズの下までたどり着いたドロシーは父をダンスに誘い二人は暗転したフロアーで踊り始めるのであった。
音楽伝記映画ではあるが、音楽の楽しさ、面白さを謳いつつ家族愛をしっかり絡ませて、ラストはハートを掴んでグッと来るエンディングで締めている粋な映画に仕上げられた秀作だと思っている。