アカバネ

ア・ホーマンスのアカバネのレビュー・感想・評価

ア・ホーマンス(1986年製作の映画)
3.6
「斬新な試み」で終わってしまう悲しさ。

松田優作が初めて監督した映画である本作。一応は日本人にも馴染みのある「ヤクザ映画」というジャンルに位置する訳であるが、それだけに本作が如何に奇抜であるかが分かり易い。

他の方々のレビューでも散々指摘されているように、振り子のように揺れながら夜景を映したり、エレベーター内を正面から定点カメラで捉えていたかと思うと急に上へパンするカメラワーク、強烈な「赤」や「緑」といった色が支配する画面、主人公の正体に関連付けているように思われるアジア感のある音楽、松田優作演じる「風」がベトナム戦争に従軍した兵士の生まれ変わりであることを示唆するセリフ...かと思えば『ターミネーター』の影響をモロに受けたと思われる衝撃のラスト。他にも特徴的な点は沢山あるが、全部挙げようとするとキリがない。
これらは良く言えば「アーティスティック」と表現できるのかもしれないが、ハッキリ言って殆どが出オチである上に演出の意図が非常に分かりにくい。オマケに本作は最初に記述した通りヤクザ映画であるものの、変な方向に注力しているのでアクションは極めて少なく、カタルシスにも欠ける。

分かり易い長所としては、序盤のフィルムノワール的な夜景や長回し、大島組の金庫番を演じたポール牧の演技と彼の繰り出すバイオレンス描写の素晴らしさ、松田優作と石橋凌の安定した格好良さが挙げられる。また99分というタイトな上映時間も、本作の奇抜な演出の釣瓶打ちに対してギリギリ飽きやイラつきがこない丁度良い尺だと思える。

といった感じで、殆ど出オチの奇抜な演出が良くも悪くも印象的な本作であるが、監督した松田優作はご存じの通り、本作の公開から3年後の1989年に亡くなっている。本来ならば監督一作目からこの調子なので二作目三作目と続けて観て、いつか洗練された彼の映画を観る日を楽しみに待ちたいが、それが叶わないのが現実なのである。
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