アカバネ

ボーダーライン:ソルジャーズ・デイのアカバネのレビュー・感想・評価

4.8
エンタメ性も戦闘力も上がった最強続編。

本作は2015年にドゥニ・ヴィルヌーヴが監督した『ボーダーライン』から3年越しの続編である。
前作ではエミリー・ブラント演じる主人公の目線を通して、アウェーなメキシコでの戦いを『トレーニング デイ』のようなライド型映画として描きつつ、最終的には原題である『SICARIO(殺し屋)』に相応しい着地を見せた。

そこからの本作である。
(前作をすっとばして本作だけ観るという異例は除いて)前作を観たことでエミリー・ブラントと共に地獄のようなメキシコでの新人研修を終えた観客に対して、続編である本作が見せつけるのは地獄の様な現場仕事である。観客と共にあたふたしたり理不尽な状況に嘆いたりしたブラントはいなくなり、代わりにジョシュ・ブローリンやベニチオ・デル・トロによる「プロの目線」を通して、前作以上に容赦なく麻薬カルテルとの戦いを描く。

初っ端からスーパーマーケットを襲う凄惨な自爆テロを長回しで描いたかと思えば、米国側も米国側で捕虜の家族を家ごと空爆して殺すという大胆かつ容赦ない仕打ちを見せる。そこには前作でブラントが見せた躊躇や戸惑いは一切ない。
冒頭からこんな感じなので、全編通して派手な銃撃戦が繰り広げられるのも本作の特色であるが、ここでその手腕を見事に発揮しているのが本作を監督したステファノ・ソッリマだ。

恥ずかしながら彼の『バスターズ』は未見であるが、過去作である『暗黒街』においては決定的な瞬間をワンカットで描くことで一種の黒沢清的な演出を行った。これは本作においても同様で、先程記述した冒頭の自爆テロの場面やイザベラ・モナー演じるイザベルを誘拐する場面、車列襲撃場面などをワンカットで描くことで、映像的快感を与えるだけでなく観客の緊張を途切れさせないことにも成功している。
また前作同様「麻薬カルテル側の人物の物語も同時並行して描きつつ、最終的には主人公の物語と合流させる」というのを行っているが、先程挙げた『バスターズ』や『暗黒街』が群像劇なだけに、そこでの経験が活きているのではないだろうか、知らないけど。
更には「それぞれの物語が合流したところで衝撃的な展開が起こる」というところまで前作と同じなのだが、本作はその展開に対する「マジかよ!?」感が凄まじい。しかし前作にも増して娯楽性を高めた本作において、それは正解であるともいえる。
『SICARIO(殺し屋)』としての物語が本格始動した本作、ベニチオ・デル・トロ演じるアレハンドロの暴れっぷりが凄まじく、それは予告編で印象的に使われた、「パンプ・ファイア」と呼ばれる方法で拳銃を撃ちまくる場面にも表れている。それだけに、彼を何度打ちのめしても死なない「ターミネーター」的に描いてもそこまで不自然ではないし、むしろ彼の演じるアレハンドロというキャラクターを神格化させるための演出と思えば全然ノれるものだ。
ジョシュ・ブローリン演じるマットにしても、アレハンドロがアレされた場面以降からの怒りっぷりは見逃せない。敵をわざわざホールドアップさせてから皆殺しにするなどの容赦のなさも印象に残るが、何よりもそういった彼の僅かな言動の変化から「如何にマットとアレハンドロの間に信頼関係があったか」というのを読み取ることができる。基本的にドンパチしている映画ではあるものの「名優ジョシュ・ブローリン」の素晴らしさを堪能することもできた。

前作から更にエンタメ性が高まったことで、「21世紀のミリタリーアクション映画」として十分すぎる程に楽しむことができた。『ゴッドファーザー』的な「扉が閉まる」エンディングによって与えられた興奮をじっくり味わいながら、3作目を楽しみに待とうと思う。
アカバネ

アカバネ