馮美梅

神童の馮美梅のレビュー・感想・評価

神童(2006年製作の映画)
5.0
個人的には音楽映画の中ではのだめカンタービレよりもこちらの作品の方が好きです。

ピアノが好きなのに弾くことに抵抗を感じている中学生のうたと、ピアノが好きなのに才能があまりない音大生の和音(わお)が出会う事でそれぞれにとってピアノとは?音楽とは?と考え、たどりつく答えは…

中学生のうたには母親や周囲の自分に対する期待を重荷に感じていた。そんな時に出会った音大志望の和音。彼と接することで少しずつピアノに対しての向き合い方に変化が出てくるのだがそんな時に耳に異変が…。

音楽は決して特別なものではなく日常的にそこにあるもの。だからこの作品も特別な何かがあるわけではない(変に感動させようとか盛り上げようということよりも、主人公2人の日常と音楽のつながりを大切にしてるように思われる。)「神童」と言われた少女と、平凡でピアノが大好きなのに決して特別な才能があるわけではない青年…でもお互いにとってお互いはかけがえのない存在…

最初、うたが和音に「耳の中にセミが入ってる」といった時には和音も気がつかなかったがその後、うたの変化に気がついたからこそ「今、あいつがピアノに向かうことはあぶないというか…」と言ったのかもしれないし、代役でステージに立つことも必要以上に心配したのだと思う。

「とうさんはきっと自殺した」という言葉は聴力を失いつつある自分がまさに父親と同じようだったからなのだろう。あのピアノのお墓でお父さんが言った「蝉が鳴いてるよ…」うたはその言葉の意味を理解したのだろう。

「父さんは音楽のままでいたかったんだよ」そしてうたは「私は音楽だから」と和音に言う…うたが音楽でいられる理由、それは和音という存在がいるからなのだろう。お互いの無いものをお互いが補うための存在。

ピアノの上にいつもいるガンちゃんはうたにとっては和音であり、和音にとってはうたなのだろう。

うたの唯一安心できる場所が和音なのだ。

コンサートで演奏をしてるうたを遠くから見守る和音の表情が時に穏やかであり、そして不安であり、心配であり…。(この時の松山ケンイチさんの目の表情は鳥肌が立ちます)

うたがピアノのお墓に行くことも和音にはわかったし、どうして行ったのかも多分わかっていただろう、最後の連弾のシーンも実際、うたに和音の言葉が聞こえていたかどうかはわからない、でも2人は耳で聞こえない、言葉にできない、目に見えない心で感じる音楽が、そしてお互いの存在がある事が全てなのかもしれない。

最後の連弾のシーンの和音とうたの表情がそれを物語っているし、映画として未完成だという人もいるかもしれないけれど(はっきりとしたエンディングではないので消化不良な人が多いようだが)、そのあとからまた2人の新しい関係がスタートするのだろう。

松山ケンイチさんが演じる和音が良い。
ピアノが好きで仕方無いのに上手くなれない・・どれだけ練習してもそれが切ない。

受験の前のがむしゃらに鍵盤に向かう姿、緊張とプレッシャーのあまり試験会場から逃げ出そうとする和音、うたとがんちゃんに励まされ、必死に鍵盤を叩く和音の緊張感が見ている私にも伝わってきてドキドキしてしまった。(そして余りの必死さに笑いが…どう見ても21歳(当時)に見えないよ~爆)

大学生の和音よりも中学生のうたの方がませていて積極的なのが微笑ましい(でも和音はうたの事を女性とは見てないからねアハハ)

私が個人的に好きなシーン(沢山あるんだけど)

・冒頭シーン静寂から突然うたに声をかけられて戸惑う和音の表情
・商店街の隣の衣料店の主人がバットで和音のピアノを壊そうとしてそれと止めている最中にうたの弾くピアノが流れて皆が一瞬固まるシーン(あの目が丸くなった表情が可愛い)
・うたを怒らせて歌の家で夜練習できなくなって必死でピアノの練習をする和音(悲壮感が漂っているのがねいい)
・試験のシーン、うたが冷たくなった和音の指を温めるシーン
・実技試験の形振り構わず一心不乱にピアノを弾く和音(口を尖らせたり髪が降り乱れている和音の表情がいい)
・うたが大学でピアノを弾いているとき、その音を聞いて突然音の方に走り出す和音の走り方(つま先で飛ぶように走る姿)
・夜中、和音が目が覚めるとうたが「今日はここで寝る」と言いながらピアノのお墓のお話やお父さんの話をして早朝寝ている和音にキスしてがんちゃんを置いて帰る
・コンサートのシーンでうたを不安そうに見守る和音の表情(関係者の制止を振り払ってうたのもとに向かうシーンからうたが倒れるまでのシーン)
・うたがいなくなってピアノに向っているときにうたの言葉を思い出す和音の表情
・そして最後の連弾の和音のうたを見る優しいまなざし
・色んな事に不器用なうたと和音をいつも温かく見守ってくれている、家族や友人や大学の先生たちの姿
馮美梅

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