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楢山節考のmatsuitterのレビュー・感想・評価

楢山節考(1983年製作の映画)
5.0
今村昌平監督83年パルムドール。

古来の日本の農村を舞台にした日常劇だが、描かれる事象が全てスーパーシビア。重ねて映されるフクロウやヘビなどの野生動物たちの営みは人間とさほど変わらないように感じられるのがまた面白い。人間ただ生きて食って死ぬだけというのをこれでもかと見せつけられた。傑作中の傑作。

ド直球な表現がものすごいハマったので久しぶりにライフタイムベスト1の邦画となりそう。

以下ネタバレ。

とにかく描写がドギツイ。
生まれた子供が育てられないときはすぐに殺して畑の肥やしにする。
次男三男は結婚も許されず、一生奴隷。
盗みを働いたら一家まとめて生き埋め根絶やし。村人が相談の上で集団的な私刑に処す。
いくら丈夫で健康でも、70になれば人骨とカラスしかない岩場が人生の終着地点。
ボケて生にしがみつく父を縛り上げ、谷底へ突き落とす。

性と暴力が明け透けで、野生と文明のギリギリの境目。随所にフクロウやヘビが獲物を捕らえるシーンが挟まれるが、人間と何の差があるのだろう。全ての描写がワイルドさに溢れ、そして非常に美しくも感じられた。

このギリギリの社会は、何があろうと感傷に浸る余地など与えられず、ただそこでルール通り生きることだけが強制されるディストピアである。だがそもそも人間社会とはずっとそうであったのだ。文明の発達があろうとなかろうと人間は変わらないことを非常にうまく描写した映画と言える。

余談。

Wikpedia の解説が死ぬ程面白い。主演女優が監督に言われて前歯を4本削っただの、撮影に使った数百羽の烏を最後に全部撃ち殺しただの、今村昌平がカンヌを知らなかっただの、信じがたいエピソードばかりで非常に読ませる内容。
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E6%A5%A2%E5%B1%B1%E7%AF%80%E8%80%83_(1983%E5%B9%B4%E3%81%AE%E6%98%A0%E7%94%BB)
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