リコリス

第九軍団のワシのリコリスのレビュー・感想・評価

第九軍団のワシ(2010年製作の映画)
4.2
原作は少女も読む岩波少年文庫の、ローズマリ・サトクリフ作、ブリトンの鷲シリーズ第一作目。

ブリトン辺境のローマ軍団長として赴任したマーカス・アクイラが蛮族から砦を守ったが負傷で除隊。辺境を志願したのは父が辺境で闘い軍団ごと消えた、その名誉回復のため。一時は生きる希望を無くした彼だが、蛮族(氏族)長の息子の奴隷エスカと、失われた軍団の象徴である軍団旗の鷲飾りを取り戻しに辺境の旅へ、という物語。

ローマ帝国と植民地拡大、武力でキープという図式を理解するには最適。大人が読んでも感動する、異文化と支配・被支配の中で出会った若者二人が旅を通して成長していく原作。大筋はその通りだが、話の細部をかなり違った形で大胆に書き変えている(特に帰路)。でも、この映画は映画で良い。

蛮族と言うのはローマ側の見方で、ハドリアヌス帝の壁の向こうに追いやられた氏族たちからすれば、ローマ人こそ蛮族。更に二人のように、ローマ人・氏族というより既にブリトン人というべき、土地への帰属意識がある者には、分断は憎しみより哀しみをもたらす。

ブリトン(イギリス)の過酷で雄大な自然、容赦ない戦闘、ローマと氏族の文化を含めての対立は原作より際立つ。映像のリアリティ。鷲の頭(ローマ武力支配の象徴)が対立を煽る存在なので、奪回作戦は正解だが、戦闘でなら更に双方の憎しみが増強されるだろう。そのあたりは原作のほうが柔らかい(女性の存在含めて)。何気に配役も良く、もっと知られても良い佳作。
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