シネマの流星

東京画のシネマの流星のレビュー・感想・評価

東京画(1985年製作の映画)
5.0
小津安二郎の『東京物語』の「オープニング・クレジット」から始まるオープニング。映画の中で最も退屈で不要だと思っているオープニング・クレジットにヴェンダースが小津への想いを語る。ヴェンダースの眼を通して東京物語のオープニング・クレジットを見ると、不思議な味わいがある。小津を追い求めるヴェンダースにとって、1983年の東京は「傷ついた風景」ではあるが「失われた風景」ではない。心の中に小津の風景はある。他のドキュメント映画よりドキュメント性が強いのに、フィクションの浪漫を失わないのは、ヴェンダースの心が放熱しているからだ。笠智衆へのインタビューでは字幕を入れず、ヴェンダース自身が笠智衆の言魂を咀嚼して自分の声で翻訳。車窓の風景が多い。銀幕。人生が映写している。パチンコは誰とも喋らないし、誰かと対戦もしない。ただ釘と玉の静と動を見つめる。映画に最も近いのはパチンコなのかもしれない。ヴェンダースが撮る東京は、邦画やテレビドラマよりも東京がある。外国人が撮る「TOKYO」ではなく「東京」。地面からカメラが生えているかのように東京の風土を捉える。映画は世界旅行のパスポートであり、同時に国境を破壊する<宇宙の消しゴム>である。
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