MOCO

サムライの子のMOCOのレビュー・感想・評価

サムライの子(1963年製作の映画)
3.5
「あんた達、こったらとこ(部落)見てもびっくりしねぇの」
「しねぇ!なぁ、吉田んちも俺んちもまんずこれとどっこいどっこいだもんな」


「サムライ」と言っても武士の侍ではありません。「サムライ」とは、北海道で屑拾いをしながら暮らしていた貧しい人たちをいっていた差別用語です。
 昭和40年中頃まで北海道の各所に「サムライ部落」は散在していたようすが、部落は北海道に限らず違う名前で日本各地に散在していました。

 部落には劣悪な立地にバラック小屋を建て、お風呂に何日も何ヵ月も入っていないような人たち?が生活していて「近寄ると誘拐される」「部落の横を通るときは息をしてはいけない」などの噂がありました。
 いまの若い方には想像もつかないでしょうが、部落に石を投げガラスを割ったり、部落の人に石を投げる人達も少なくはありませんでした。
 オリンピックや万博、◯◯世界大会の開催で訪れる外国人の目に触れないよう、ことある毎に部落は解体されていきましたが、そこに住む人達がどんな補償を受け何処へ行ったのか?私には全く分かりません。


 元紋別に暮らす小学生の田島ユミの父親・太市(小沢昭一)は開拓の仕事を諦め家族を捨て、小樽へ出ていたのですが、5年前に捨てた妻が亡くなり、今度は母親が亡くなったために、ユミを小樽に引き取ることになります。

 太市は知的障害がある女・やす(南田洋子)と再婚しており、二人の間に生まれたばかりの赤ん坊のいる市営住宅にユミは住むことになります。

 田舎暮らしのユミは市営住宅に住める憧れで出てきたのですが、ユミの住む市営住宅は、名ばかりのバラック小屋。世間から差別を受けている「サムライ部落」なのです。
 ユミの父親は屑拾いで酒好きな、女好きなダメな男なのです。

 ユミは部落の若者マキタ(浜田光夫)に部落にいることを誰にも話してはいけないと言われます。

 初めての土地で転校のために小学校を探していると男の子が校舎と職員室を教えてくれたのですがユミは、からかわれて高校の職員室を教えられ、親切な高校生・恵子に小学校へ案内されるのですが、恵子にも部落のことをお友達には話さない方がいいと言われます。

 嘘をついた男の子はタカミという名前で同じクラスで席が隣になりました。

 ある日ユミは教室でタカミ達に「臭い」と言われ学校帰りをつけられてしまいます。
 ユミは高台のお金持ちの住宅街を目指すのですがどうにもならなくなり、一軒の家に飛び込みます。
 偶然その様子を見ていた近所に住む恵子に助けられ、ユミは恵子の家でお風呂に入れられシラミ取りをされ、着たことのないような洋服を買ってもらいます。
 その事でユミはお金持ちの娘と誤解されるのですが、ユミには重荷でしかありません。

 ある日女の子達と遊んでいたユミは突然タカミ達男の子に囲まれ土手を転がされます。その先には偶然なのか母親のやすがいて「こぉらー、このーくそガキー」と男の子を怒鳴ると「怪我ぁなかったですかお嬢ちゃん」とユミに言葉をかけて去っていきます。知的障害のあるやすですら身なりの汚い自分がユミの母親と分かってはいけないことを知っているのです。
 その日家に帰ったユミはやすを初めて「かあちゃん」と呼びます。やすの「近寄るな」はユミが汚くなってはならないという思いなのです。

 ある日、部落に「ノブシ」と言われる人たちが集団で送られてきます。「ノブシ」は前科者や全く働く気がない人達のことです。
 「ノブシ」の中には自分の生年月日や正しい自分の名前を知らないし者や戸籍すらない者もいるのです。

 「サムライ」と「ノブシ」は対立するのですが「ノブシ」の娘で読み書きの出来ないミヨシはユミに「学校で勉強ができるように先生に頼んで」と言います。ユミは担任に相談し担任も一生懸命になってくれます。
 待ちきれないミヨシは教室を覗きにやってくるのですが、あまりに汚い格好に(ユミの担任とは違う)先生に学校から出ていくよう言われ、数名の男の子から石を投げられます。
 石を投げる生徒とミヨシの間に割って入り「やめろ!石を投げるのは卑怯だ!」と言ってくれたのはタカミです。ユミはタカミを頼りになる男の子と見直します。
 そんな中ミヨシの父親・飲んだくれのクマ(上田吉二郎)は当たり屋に失敗して死んでしまい独りになってしまったミヨシをどうするのかという問題がおきます。

 太市は競輪で10万円の大穴をあて、念願のリヤカーを購入して「サムライ部落」を出ることを決めるのですが、祝いに部落の者に振る舞い酒をして、一晩に何万も使ってしまった挙げ句、しまい忘れたリヤカーも盗まれ2万円しか残っていなくなります。
 やすに責任を押し付ける太市に呆れたユミは元紋別から出てくる時に取り上げられた2,000円を返すように言いますが「出て行け」と言われ家を飛び出します。ユミにはミヨシを学校に行かせるお金が必要だったのです。

 天涯孤独になったユミとミヨシとミヨシの取り巻きの子供たちは橋の下で生活を始めると、やすが赤ちゃんを連れてやって来て一緒に暮らすことになります。太市は残った20,000円を競輪で失くした挙げ句、責任をやすになすりつけたのでした。

 一週間後、マキタとマキタの恋人に連れられ太市がやって来て、説得されたユミたちは家に帰ることになり、ミヨシは裕福な旭川の親戚に引き取られ学校に行けるようになります。

 もう隠すことはやめようと決めていたユミは、バス亭でミヨシを送る帰り道で偶然会ったタカミと吉田君を家に誘います。部落の見えるとことろで 「あんた達、こったらとこ(部落)見てもびっくりしねぇの」と尋ねるとタカミたちは笑いながらここの空き地で野球をしたかったけど「サムライ」が怖くてできなかったけどユミがいるからこれからは大丈夫だねと喜んでくれるのです・・・。


 元々「サムライ部落」にいることを隠すことなど考えてもいなかったユミに「部落に住んでいることは隠した方がいい」というマキタに恋人のヒロ子(松尾嘉代)は「どうしてそんなことするの?いつかわかってしまうわ」と言い、マキタは「部落の人間だとわかっただけで石を投げられたり、お金がな失くなったりすると真っ先に疑われる」と言います。
 そんな時代に「俺たちの家もどっこいどっこい」と笑う三人は微笑ましいのですが、現実はマキタの言う通りなのです。

 酒をやめ真面目になった父親を囲んで明るく映画は終わりますがユミが良い子なだけに悲しくなってきます。

 
 第1回講談社児童文学新人賞で佳作に選ばれた山中恒の同名小説の映画化です。
 どんな境遇の中でも明るく、強く正直に生きようとするユミも、悪いことを悪いこととも教えられず怠け者のように育ったミヨシも心の清い子供なのです。

 脚本は今村昌平、30才の南田洋子さんが演じる知能障害のある女性の演技は1963年のブルーリボン賞 助演女優賞を受賞し、南田洋子さんの女優人生に大きな影響を与えた映画です。

 小学校の講堂で観るようなこの映画はDVD化はされていません、映像の中の昭和40年頃の舗装されていない道路や木造の校舎や教室、子供たちの服装や髪型はなんだか懐かしくなります。
MOCO

MOCO