ーcoyolyー

スワロウテイルのーcoyolyーのレビュー・感想・評価

スワロウテイル(1996年製作の映画)
4.0
いい雰囲気映画でした。とっても。本当に。

1990年代半ば、小室哲哉も安室奈美恵もエイベックスも無縁の私たちのカルチャー、それがそのまま切り取られてそのままの形で封印が解かれてあの頃の空気感が横溢していて。私たちの青春がここにそのままあって、もうここにしかなくて。懐かしい。歳を取った。あの頃必死に生きていた私たちはこうやってあの頃を懐かしむ大人になった自分を想像だにしなかった。でも、この映画を見終わるとあの頃が目の前から雲散霧消して2020年の何の変哲もない日常に戻されて。

あの頃、香港はまだイギリス統治下で、でも中国返還へのカウントダウンがゼロになる瞬間もすぐそこまで迫っていて、私たちのカルチャーでは香港ブームが起きていました。一種のお祭り騒ぎというか狂騒状態でした。そして円が世界で一番強かった頃というのもそれほど遠い過去ではなかったので、今振り返るのとは全く違う非現実的な世界が描かれていると感じていたんだと思います。2020年の日本ではアジア系移民というのは物珍しい存在ではないですし、技能実習生の扱いなんかを知っていると円都の存在感もなんとなく理解できると思うんですけど、この公開時はリアルではなかったんです。

あの頃、大学までのスクールバスに乗って顔見知りと「スワロウテイル」の話になったら私以外みんな観てたという状況だったんですけど、何で私観なかったんだろうな?ずっとタイミング逃し続けて今やっと観たんですけど、逆にあの頃観なくてよかったのかもしれないな。学生時代に撮った「写ルンです」を突如発見して何が写っているかよく分からないなと思いつつ現像に出してタイムカプセルとしてあの頃の写真を受け取ったような気分だ。

あの時代の気分、そうだよねこうだったよね、私の基礎・基盤・底にあるのはこの空気感だなと、もうどうしようもなくこれだよなと、アップデートされてないしできない、どうしようもなく動かし難いものがここにあったなと。古いとかダサいとか思われてもどうやっても変えられない、仕方ないなと。心の奥底に留められていた空気感が、パンドラの匣のように開いて飛び出てもう私には止められないなと、出し切るまでそのままにしたくことしかできないなと。

エモい。エモいという単語はこういうときに使う。

種田陽平の美術がいい仕事をしていて、これが世界観を決定付けていたから岩井俊二にそこまで引っ張られなかったかなと思う。今見てもギリギリの線でアリにしてたのは種田陽平だと思う。

CHARA演技頑張ってた、SUMIREも頑張れよ、と思ったけど、SUMIREのあの演技というか喋り方は浅野忠信を彷彿させるものがあったなと気付いたから、じゃあまあいいや。外見CHARA似でも中身は浅野忠信似なのかな。そうだよ、もうこの映画に出てる人らの子供が似たような立ち位置の映画に似たような立ち位置で出演してるんだよ。出てくる役者陣もあの人の(元)夫、(元)妻だ、ってパートナーの顔も一緒に思い出して、後の夫婦共演してると勘違いさせられるようなあの界隈の皆さん勢揃いで懐かしいですよね。90年代半ばサブカル民同窓会ですよ。私の青春は90年代半ばなんですね。つくづく身に染みました。何をやってもそこが核になってそこに立ち戻るんだ私は。
ーcoyolyー

ーcoyolyー