磔刑

アメリの磔刑のレビュー・感想・評価

アメリ(2001年製作の映画)
4.9
「天使の幸せ探し」

人生の転機。運命の出会い。その全ては理由の無い無機質な偶然ではなく、人と人、運命と運命の橋渡しをしてくれる天使がこの世界に存在し結び付けてくれている。突飛な考え方だがそれを人であるアメリ(オドレイ・トトゥ)の目線で描く事で主観の域を出ない運命論に客観的な説得力を持たせ、更にコミカルかつコケティッシュに演出する事でリアルとファンタジーの間を巧みに描いた唯一無二の作品だ。

ファンタジー色の強い作風だが、ありがちな虚構の腕力で現実を都合良く歪める事はせず、人生の些細な転機や出会いをアメリの空想を交えた現実的な目線で解き明かしていくスタイルはリアルとファンタジーのバランスが絶妙に取れており、ファンタジーを敬遠しがちな無粋なリアリストの私でも運命が身近に存在する事を肌に感じる見事な演出力である。
ジャン=ピエール・ジュネ監督の癖の強いビジュアル演出や世界中のお洒落な雑貨屋を混ぜてぶち込んだ様な世界観が真っ先に目につくが、その演出美に負けずとも劣らないオドレイ・トトゥの愛らしさが作品の完成度を何ランク上にも高めている。美人を美人に映す事や、可愛いものを可愛く映す事は被写体のポテンシャルがあれば然程難しい事ではない。しかし特別美人でもなければ目を惹く程可愛い訳ではないトトゥを可愛いや美人と言った凡庸な例えでは形容できない魅力を引き出し、あの独特な世界観で彼女が特別な存在である事を説得力持って演出出来るのはジュネ監督の力量があってこそである(もちろんトトゥのポテンシャルもあってこそだが)。この手のアート系作品では軽視されがちな脚本も隅々まで目が行き届いており、終盤に伏線をしっかり回収する点も作品の満足感を得るのに十二分の効果を放っている。

私的に超が付くほど大好きな『ダンサー・イン・ザ・ダーク』とは対極的な立ち位置の作品ではあるが、陰と陽の違いはあれど両作共通して“この世界が生きるに値する”事を独創的かつ鮮烈なイメージ、屈託のない女性の芯の通った生き様で描かれており、元気な時にはより元気に、落ち込んだ時には一歩を踏み出す勇気を与えてくれる名作中の名作である。
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