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少年と自転車のKKMXのレビュー・感想・評価

少年と自転車(2011年製作の映画)
4.7
 ダルデンヌ兄弟ガーエーは相変わらず最高、今回も観応えマックスでありました。

 ただ、本作は何を血迷ったか劇伴が入るんですよね〜これはダルデニストとして興ざめでした。特にエンディングの切れ味に大きく影響を与えています。あの、ガーっと来た瞬間に暗転して無音のエンドロールという、他の作品では味わえない最高の体験が今回できなくて残念でした。
 まぁ、文句の付け所はそれくらいで、あとはいつも通りスゴかった。


 親父の養育拒否で養護施設で暮らす自転車好きな暗い表情の男児・シリル。親父はシリルを施設に預けて蒸発。しかもシリルが大事にしていた自転車を売っぱらってから消えるという鬼畜ぶり。そのひどい現実をシリルは当然受け入れられません。
 そんなシリルとひょんなことから知り合った美容師サマンサ。シリルに頼まれて週末だけ里親になります。
 自転車を取り戻し、親父の居所を突き止めたシリルとサマンサは、親父に会いに行きますが、親父の態度は予想通り最悪で、シリルを厄介払いします。
(親父役が事もあろうに『ある子供』でブリュノを演じた人だった!)
 打ちのめされ、居場所のないシリルに少年ギャングのボスが近づいていき…そんな感じのストーリーでした。


 どの切り口からもガッツリと語れる重厚さがありますが、やはりシリルの里親・サマンサの態度が最も印象に残ります。
 里親になることはサマンサにとって一文の得にもなりません。しかもシリルは攻撃的で厄介な子どもです。しかし、サマンサは自然と里親になり、ガッツリとシリルに向かい合います。理由は説明されていないし、サマンサ自身も「分からない」と言っています。
(この「分からない」は『息子のまなざし』以来2度目!)

 なぜ「分からない」のか。それは『息子のまなざし』の感想文でも書きましたが、人間の意識で把握できる因果論では説明ができない行動だからでしょう。
 きっとサマンサは無意識的にシリルの里親になることが正の循環を生み出す、と感じていたのだと思います。サマンサの目の前に『シリルの里親になって、この世界に意味ある貢献してみたら?』というメッセージが向こう側からフュッとやって来たのでしょう。それにサマンサは応えた。
 ややこしい言い方になりますが、『向こう側からの意味ある問いかけに、良心が無意識的に応えた結果、世界に正の循環がもたらされた』と俺は捉えています。何かを超越して良き循環が生じる時って、こういうメカニズムが働いていることが多そう。意志の力を超えて、何かに突き動かされるとでも言いましょうか。
 『タレンタイム』における、ハフィズとカーホウのアレもこのようなメカニズムが働いていたように感じます。
 こういう合理的な因果論を超える態度に、俺は人間の崇高さを感じます。サマンサは本当にすごい。偉大です。


 あと、居場所のない孤独な少年がギャングに絡め取られるプロセスが異常にリアル。こうやってヤクザの若い衆って作り上げられるのね、と感心してしまいました。
 サマンサはシリルを受け止めますが、彼の存在を積極的に認めることは関係性の構造上あまりできない。しかし、ギャングのボスは、シリルの勇敢さを評価するんですよ。お前はすごい奴だ、と。これ言われると嬉しいですよね!しかも特別扱いしてくれる。サマンサはシリルがボスに絡め取られるのを把握していましたが、こうなったら止められない。水が高いから低きに流れるが如く、シリルはギャングの世界に染まって行くのです。
 もちろん、希望を描くダルデンヌ兄弟がそのままで終わらせる訳はありませんが、かなりハラつきましたね〜。

 また、本作では被害者と加害者が反転する場面がありますが、加害者になった瞬間に人間のズルさが思いっきり露わになったのが印象に残ります。こういう性悪説的な側面もしっかり描くから、サマンサの行動がウソ臭くなくなり、リアルさと説得力が生まれるのだと思いました。


 北千住ブルースタジオでのダルデンヌ兄弟特集はこれで一区切り。本特集はかなりヒットでした。
 ブルースタジオは雰囲気いいのに常に空いている穴場スポットなので、東京近郊にお住まいの方にはオススメします!北千住の街も店がいっぱいあるので、お酒好きな方はガーエー後も楽しめそう。
 というか、多くの人たちに利用してほしい。人がいなさすぎて存続の危機を感じています。広くて超ガラガラだから、秋冬はかなり寒いため、暖かくして足を運んでくださいまし🍵
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