シズヲ

誉の名手のシズヲのレビュー・感想・評価

誉の名手(1917年製作の映画)
3.7
ジョン・フォード監督のサイレント映画であり、彼の監督作で現存している最古のフィルム。この頃から撮影のダイナミズムが遺憾なく発揮されており、高低差や奥行きを駆使した画面構成に度肝を抜かれる。丘の上からカウボーイ達が牛の群れを見下ろすカットに始まり、“手前”と“向こう側”の空間設定に唸らされるばかり。ライフルによる決闘のシーンは撃ち合いそのものより対峙する絵面が印象深い。

ダイナミックな画面構図のみならず、そこにアクション的な見せ場も加わっているので脱帽。サイレント映画特有の早回しはちと気になるとはいえ、無数の馬を駆使したスタントの数々はとても躍動感に溢れている。小屋を取り囲んで銃撃の応酬が繰り広げられる終盤の籠城戦なんかも強烈凄まじい。『天国の門』で描かれた構図を遥かに先取りしているらしいのが舌を巻く。

本作の筋書きを見ていると、改めて「牧場主と入植者の対立」という構図が西部劇の典型だったことを思い知らされる。息子が射殺される下りなど、古典的作品ながら迫害の暴力性も垣間見えるのが印象的。そんな中でハリー・ケリーは“善を成し遂げてコミュニティーに誘致されるガンマン=アウトサイダー”という古典的な西部劇主人公の属性を地で行く。それはそうと彼が樹木からひょっこり顔を出すのはおもろい(この時点だと主役とは思えぬ悪人面だ)。調味料をこっそり拝借するメキシコ系のおっちゃんなど、要所要所のユーモアもフォードらしい。
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