B5版

告発のときのB5版のレビュー・感想・評価

告発のとき(2007年製作の映画)
3.5
『クラッシュ』の監督らしい完成度の高い映画だった。
伝えたいメッセージが剥き身なところは行間の余白を楽しみたい方向きではないかも。
けれども嫌味なく照れなく、正義というものを考えさせられる作品になってるのは、やはり監督の巧さだと思う。

ww1の死者が軍人ばかりなのに対し、ww2は市街地での戦闘により一般市民の死者も増えた。
そしてアフガン、イラク、ウクライナと言うまでもなく。
近代の戦争になればなるほど犠牲者の性質はカオスになり、大義の名の下の殺戮に飲み込まれていく。

戦争は被害者の人生を変える。
その事実に於いて侵略側が悪であることは言うまでもないこと。
しかし戦争を生みだす人間とそこに乗り込む人間は違う。
命令のまま戦地に赴いた人々の人生もまた大きく歪むことは、たまに思い出したようにニュースに上がるくらいの希薄な事実だ。まるで、そんなことは織込済みだろうとでも言う様に。

「国に帰りたくて仕方なかった。けど今はイラクの狂気に帰りたい。」
戦場帰りの兵士は呟く。
少なくない希望を持って兵士たちが辿り着いたのは無法地帯の地獄だった。
突然非日常へと放り込まれ、長く取り込まれてそっくり変容した後にまたある日突然日常へと吐き戻される。
身に宿った狂気は誰も引き取ってくれないまま。

理性が剥ぎ取られていく狂気が満ちた場で、強きを助け弱きを挫くことに憧れた青年が間違っていたのだろうか?
否、全ての元凶、ここでいう過ちは戦地に向かわせた者達の持ち物であるとこの作品ははっきりと責めの矛先を咎めている。
原題『In the Valley of Elah』、
幼いダビデが巨人ゴリアテに立ち向う勇敢さを美徳とした神話では、
子供を盾にした大人の存在はけして口に上らない。しかし子供を窮地に送るのは我々大人の側なのだと、そのことを忘れるなと作品は観客に促している。

公開から16年経ったが、今もまだ星条旗は逆さのまま、空ではためいてる気がする。
B5版

B5版