彦次郎

酔いどれ天使の彦次郎のレビュー・感想・評価

酔いどれ天使(1948年製作の映画)
3.9
敗戦後間もない日本、貧乏医師眞田が結核に冒された闇市を牛耳る青年ヤクザ松永の治療を必死に試みようとするドラマ。監督は黒澤明。
タイトルの『酔いどれ天使』はこの眞田のことで酒好きで口は悪いが面倒見の良い医師の鑑のような主役です。対する松永は若さゆえに血の気が多い狂暴な男ですが実は病を恐れる臆病者としての面も持っています。この2人がぶつかり合いながらも心を通わせていくことで松永も理性を取り戻し療養し解決…という医療ドラマの定番のようにはならず出獄してきたギターの上手い兄貴分岡田の登場によりヤクザ映画の成分が増してきます。
任侠を信じる松永が病を得たことで親分から役に立たなくなった犬のように見捨てられたり情婦からも裏切られる非情さは後年の『仁義なき戦い』に通じるものを感じました。闇市で花を勝手に持っていく松永が弱体化したことで店の人からも咎められる場面はヤクザというより敗戦後の日本、いや健康と権力を失えば時代を超えても当然起こりうることで弱肉強食の真理を端的に示すリアリティでした。
黒澤明監督は多分結核が治癒した女学生を「真に強い人」とし松永を含めたヤクザを否定しているような考えだったのでしょう。しかし追い詰められた末に決死の殴り込みを仕掛ける松永の「一矢報いてやる」精神の凄まじさは生き抜く強さとは別の強さを感じました。
主演は眞田を演じた志村喬も良かったですがダンディかつ狂暴で心底は純粋な男というヤクザ松永を演じた三船敏郎の印象があまりにも強いのかジャケットでは主演扱いに見えます。というか三船敏郎がカッコイイです。公開当時もそう思われたのか、反響を呼んだそうで今作以降黒澤明監督と三船敏郎がコンビを組んで作品が作られていく(正確には志村喬も加えただと思うけど)になるようです。
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