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ママと娼婦のyuienのレビュー・感想・評価

ママと娼婦(1973年製作の映画)
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確かにカメラワークや画がキマっていて、限定された空間の中でのみ展開されていたにも関わらず、3時間半という時間をそれほど冗長に感じなかったのは監督の力量とセンスによるものだろうが、すごく雑に言ってしまえば、『リアリティ・バイツ』をゴダールの『男性・女性』に落とし込んだような映画だった。

モラトリアムの延長にいる主人公が「市井の人」や労働を馬鹿にして、自分は女に寄生して、セックスと酒と特権に浸って、のうのうと生ぬるく生きてる。倦怠主義だとぬかしたり、愛や哲学、世界情勢を思索深そうに語ったりしても、それらの言葉は何も責任を伴わないゆえに空虚に響く。100%生きていない人間に100%生きようと醜く足掻く小市民を批判する資格はあるのだろうか。
劇中のレオーの見た目がユスターシュそっくりで、本作には明らかに自伝的な要素が多少なりとも含まれていることを仄めかしていて、その自己顕示もまた見ていて腹立たしいものがあった。

実在したマリーのモデルは、ラッシュフィルムを観て絶望のあまり自殺したという。映画の中で「愛への執着は死に通じる。」「死ね、ナルシスト」という落書きについて触れる場面があって、映画を観てる最中は、この落書きこそが映画の核心部だと思った。でも改めて反芻すると、これ以上にない残酷な言葉だとも思った。一見して、自己卑下して変われない自分自身を自嘲したようなシークェンスだけれど、本当のところ、変わろうともしない監督のある種の意思表明としても受け取れたから。

だからこそ、いくらかっこ悪くても、馬鹿にされても、わたしは一「市井の人」として、自分の両の手で稼いだ金で、誇りを持って酒を呷る人生を送りたいと、こういう風に否定されるたびに確信する。社会と携わろうとする人間にこそ社会を語れる資格があるんじゃないんだろうか?
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