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レッドタートル ある島の物語のyuienのレビュー・感想・評価

4.5
初めて観たときは、なぜこの映画にこんなにも心打たれるかよく解らず、ただ感覚的にとても好きだと感じた。今回改めて観て、自分はこの映画の持つ素朴な清潔さと、人生における普遍的なテーマを自然との共存の中で描いているところに惹き込まれていたのだと気づいた。

本作は一見、異類婚姻譚の題材を取っているように見えるが、広義的には、人間と自然そのものの関係、或いはもっと限定された見方としては、古典的な男女の人生としても受け取れる。

孤島は個の象徴であり、孤独な男は自分の無限な可能性や、広い世界を見る為に、がむしゃらに孤島からの脱出を試みる。
女(亀)は男と異なる世界(海)に棲み、男を愛してしまったが故に、彼が島から脱出するのを妨げる。男は憤怒するが、亀を「死なせた」罪悪感から、亀=女に対して憐憫の情が生まれ、やがてそれが愛情に変わる。

そうして、心を通じ合い、女は甲羅(自分の世界)を海に流すのを見て、男は筏(広い世界への糸口)を海に流し、ふたりはただふたりだけの人生を歩み始める。
相手とともに生きていこうとする覚悟が込められた行動を、互いが互いを離れた場所から静かに見守り合う描写がなんとも奥ゆかしい。

何も持たず何も求めず、過去も無く、到達すべき未来のゴールも無く、ただ大切な人と静かに寄り添い、営まれるプリミティブな生。そこはかとなく清らかな、いのちの形。

様々なことを乗り越えて、共に生きてきたふたりが、浜辺でダンスをする場面の美しさに切なくなる。

一方、若くエネルギーに満ち溢れ、やがて島を後にし、外の広大な世界へと旅立つふたりの息子。
夢の中で彼は、波の峰から島を俯瞰し、小さな両親に手を振る。恰も大自然を制することができると思い込んでいるようでもある。それはどこか、今を生きる現代の人々を暗示しているようでもあり、しかし、それに対する非難も賞賛もない。ただ自然ととも生き、自らの可能性を信じて、そこを後にした人間の姿として描かれてる。

息子の挑戦的な生と比較することによって、男の選択した慎ましい生の輪郭が余計にくっきりと浮き彫りになる。

男にも、女とふたりで生きていく為に置いてきた沢山の可能性が、きっとあっただろう。しかしそれらを全て手放して、一人と添い遂げられた彼の生も、満ち足りた形ではないだろうか。
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