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aftersun/アフターサンのyuienのレビュー・感想・評価

aftersun/アフターサン(2022年製作の映画)
4.4
思った以上にプライベートな映画だった。親との関係に疎外感を抱いたことがある人なら感覚的に理解しやすいのではないんだろうか。裏を返せば、かなり感覚に依拠した作品だから、そこにシンパシーを覚えられるかどうかで評価が分かれるかも知れない。

愛だけでは繋ぎ止められないものがあるし、強く相手を抱きしめても辿り着けられないものがある。
ヒロインであるソフィのクローズアップが多いのに対して、お父さんは間接的に映っていることが多く、どこか遮断されたものを感じる。この映画自体、お父さんに近づきたくて作ったような作品みたいに思えて…フラッシュが酩酊感を誘い、ほろ苦いグルーヴに胸をとても強く締め付けられた。

カラオケのシーンで、大好きなLosing my religionのイントロが流れたときに驚いて思わず声が出そうになったが、よく考えてみれば、これはある種、片思いを歌った歌だ。歌の歌詞がそのままふたりの気持ちを代弁してるようでもあった。11歳の女の子がお父さんに向けてバツが悪そうにラヴソングを歌う切なさに涙がこぼれた。

大人になったソフィは同性のパートナーと赤ちゃんと一緒に住んでいるのが、そのままお父さんとの対比になっているようにも見える。ソフィが能動的に赤ちゃんを迎え入れることが、語られてはいないが、何かから逃れてきたお父さんの過去を仄めかしているように思えた。生まれ育った場所に帰属意識を持てられず、生きることにうまく馴染められないように見えるお父さんは、だからこそクラブで踊り続けずにはいられなかったのかもしれない。まるで何かを忘れたいがために。

よく見る夢がある。夢の中でわたしは親に向かって一生懸命何かを話したり叫んでいたりしている。でも啞になってしまったかのように言葉が声にならなくて、全然相手に届かない。または、反対に相手が聾になってしまったのように、いくら喚いていても一言も通じず、こちらを振り向いてくれない。この映画を考えるとき、決まってその感覚を思い出してしまって、苦しくなる。
個人的には、本作の親子の関係性には『エル・スール』のそれともどこか通じるものを感じた。たぶん自分はこういう表面上穏やかだが、緩やかで静かに身を切り裂くような孤独感に対して、いつだって強く反応してしまうんだろうな。

本作が好きな人と作品について隅々まで語り尽くしたい、そんな気分にさせられるような映画だった。
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