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ドライブ・マイ・カーのyuienのレビュー・感想・評価

ドライブ・マイ・カー(2021年製作の映画)
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本当は痛みが鈍く疼いているけれど、傷を真っ向から認めたら、その痛みに耐えきれず、自分がバラバラになりかねないから、気づかないふりをする。或いは、大したことではないんだと自分に言い聞かせる。

真剣に向き合うことは、とてもエネルギーが必要だし、時には何かを壊してしまいかねない。だから、ほどよく距離を保っていられたら、大きな波風を立たせずに、静かに、うまく生きていけると、そう思っていた。

でも、時には「自分は深く傷ついている」と、ちゃんと、はっきりと認識することは大切だ。顧みられず放置された感情はどんどんと、とぐろを巻く。それらを肯定することから、はじめて、こんがらがった知恵の輪のような感情がほぐれるんだろう。

正しく傷つくことのほうが、実は、最も勇気の要ることかも知れない。

深く愛し合っても、相手を理解できず、救えないことがある一方で、誰かを傷付け、誰かに傷付けられた身体のぬくもりで、ひとは、また誰かを治癒することもある。
各々の孤独を抱えたまま、なお互いを求めてしまう切なさ。
結局、わたしたちはいつだって、ささやかな可能性を求めて、他者と関わり合っていき、そこから生まれる何かに期待したり、縋ったりするのではないんだろうか。

誰しもどこかに歪みを持っていて、不完全で、多かれ少なかれ、人は内に背反性を抱えている。いくら論理立てて、頭で理解しようとしても、理屈では説明しきれない感情は、たくさんある。そんなままならなさを、否定も悲観もせず、ありのままに捉えて、静かに寄り添う作品だった。

ひとは他者を完全無欠に理解することはできない、どこかしらに「盲点」を抱えている。しかし、それこそが、私たちそれぞれを個としてたらしめるものではないか。他と関わって生きていくことは、つまり、時々迷ったり立ち止まったり回り道をしたり、そうやって模索しながら進むってこと。一筋縄ではいかない。でも、それでいいんだ。きっと。
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