shino438

東京物語のshino438のレビュー・感想・評価

東京物語(1953年製作の映画)
3.0
「秋刀魚の味」から遡って観た。ちょうど10年前の作品。もう有名すぎる映画なので今更なんだけど、感動した。といってもこの映画はそこそこ歳食わないと味わい深さが染み込まないかも。

小津作品の中でも最も有名な作品だけど、「秋刀魚の味」から遡ると、独特の映像美と表現で言えばこちらの方が感情表現があって淡々とした中にもエモーショナルな瞬間がある。原節子扮する紀子の設定がとても良かった。子供らに会いに上京した老夫婦が、実の子供らには邪険にされる中、戦争で死んだ次男の未亡人である、紀子だけが優しく接してくれる。このシーンだけは老夫婦も紀子も活き活きしている。

紀子のアパートで、お隣さんから日本酒を借り、出前でどんぶり(カツ丼?)を振る舞う。狭い部屋の小さなテーブルで3人で食事をするシーンはこの映画の中でも一番好き。小津の作品は日本の住宅の広さが庶民的ですごく共感できる。自分も団地育ちだったので、ああいう狭苦しい感じが心地よいと感じてしまう。

笠智衆は相変わらずの存在感で安心して観ていられるんだけど、本作の彼は役柄の年齢もあって(実年齢49歳にして70歳の役)どんな現状も受け入れてしまう無常観が漂っていて、もう一言一言がいちいち泣ける。最後の紀子とのやり取りは説明くさいという人もいるけど、やっぱり泣けるよなー・・・。

小津作品にはよく登場する脇役として「杉村春子」がいるが、彼女の演技は他の役者(原節子は完成しているから別格)の棒みたいな喋り方の中で、信じられないくらいに自然で、現代でもそのへんにいそうなおばさんなのがすごい。
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