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秋刀魚の味のshino438のレビュー・感想・評価

秋刀魚の味(1962年製作の映画)
3.0
小津安二郎の遺作。カラー作品は初めて観た。アクションバイオレンス映画好きからは最も真逆の映画ながら、あまりにも独特なカメラワークと演出方法で、独特の個性のある作品(監督)だと思う。上手いのか下手なのかわからない笠智衆が味わい深く、ピチピチの岩下志麻も素敵だが、ちょい役なのに強烈に印象に残る岸田今日子が素敵すぎた。

日本人の心とか侘び寂びとか、哀愁とかを語るよりも何よりも「画作り」が独特すぎる。まずこの作品は全編を「固定カメラ」で撮影している。カメラにまったく動きがない。とにかく固定のカメラの前でポーズした役者が淡々と話を繋いでいく。まるでzoom会議のように。そしてその一つ一つのショットの絵ヅラが計算されているように感じる。臨場感ではなくて、1枚の写真のような演出。

そしてかの有名な「ローアングル」ですね。主人公が通う料亭。恩師が営む寂れたラーメン屋。息子夫婦が住む団地の部屋。奥行きを見せるためのショットがこれでもかと挿入される。もちろん動きはない。これがまたなんともかっこよくて、インテリアとかついつい見てしまう。60年代の「これからの日本」の雰囲気が映画的で良い。フランス映画みたいな色合いもかっこいい。

主人公の初老の父が娘の嫁ぎ先を心配して奔走する、というストーリーは小津作品では何度も繰り返し描かれている素材。笠智衆はほんの少しの感情表現だけでいつも演じているんだけど、「あの人が悲しい顔をしたらたまらない」そんな気持ちにさせるので大好きだ。今回は麗しの原節子じゃなくて、若い岩下志麻が相手だったけど、気の強い娘をしおらしく演じていて可愛かった。小津作品は登場人物の感情の起伏がほぼないんだけど、なんとなく演者で個性が出せている。

やはり本作で一番は岸田今日子。主人公が偶然はいるトリスバーのママで、銭湯帰りで頭にタオルを巻いて登場し、客に水割りを振る舞い、軍艦マーチに合わせて敬礼する姿がなんとも素敵。こんなお店に通ってみたい。
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