磔刑

カポーティの磔刑のレビュー・感想・評価

カポーティ(2005年製作の映画)
4.0
オススメ度☆☆☆
主演のフィリップ・シーモア・ホフマンの名演を楽しむ作品。
猟奇事件ではなく、それを取材する作家の苦悩がメイン。演出は重厚で説得力はあるが、物語の起伏に乏しくひたすら地味。
良くも悪くも主演の演技が刺さるか否か。
<以下ネタバレあり>







最近ミッション・インポッシブルの3作目を観たときに「そういえばフィリップ・シーモア・ホフマンって良い俳優だよな」と突然思い出して、過去に観た今作を見返したくなりました。

昔観たときはホフマンの演技もさることながら、事件の概要と元ネタの本も気になったので、映画と原作を見ました。
原作で特に名著だなと思わせるのは、犯人が殺人を犯す動機です。それまでは一家を殺す気は無かったが、些細なキッカケで炎の様に殺意が噴き出る様子は名文だと思いました。ただ、今作を超久しぶりに観返したら、その辺りが映像化されておらず、少しガッカリしました。映画的には重要ではないのかな?
原作を読んだのも随分前なので、自分の記憶違いかも知れない。カポーティのように記憶力に長けている訳ではないので。

で、映画に話を戻すと記憶力の点もカポーティを苦しめた要素だと思う。
普通の人は自分もそうだが記憶力なんて曖昧だから過去の悪い出来事はいつのまにか記憶の彼方に消えてしまう。しかしカポーティの超人的な記憶はいつまでも彼自身を過去に縛り、自分が犯した罪を問い続け断筆に至った。だが、その記憶力が彼を一流の作家に押し上げた大事な要素なのは間違いないので、彼の栄光とその凋落を象徴する要素だと言える。

カポーティが犯人の一人に強い感情移入をしたのは、自分と似た過去を持つからだ。
朗読祭での喝采に酔いしれるカポーティは、まるで自分の過去や人間性を讃えられたように錯覚したのではないかと思う。
また、文化人達との社交界で息をするようにジョークを飛ばす姿と牢獄内で口重く語る姿は非常に対照的だ。これは社交界でのセレブの姿は仮初で、自らを偽った道化であり、薄暗く冷たい過去に囚われた牢獄内での彼こそが本当の姿と言える。
そして死刑執行は自身を殺すことに限りなく近く、それで決別できるどころか死んで自由になった囚人とは違い、死んでもなおカポーティは責苦を受ける事となったのだろう。

本のタイトルになった『冷血』は犯人達を指しているのは間違いないが、それを利用したカポーティも同じだ。
それを潜在的に意識してなのか、それとも彼の罪の意識の表れなのか、それはカポーティにしかわからないことだ。

ホフマンの名演目的で鑑賞したけど、観ながら「そういえばベネット・ミラーって素晴らしい監督だよな」と突然思い出したが、『フォックス・キャッチャー』以来10年近く作品撮って無くて寂しいと同時に「そりゃ、カポーティみたいな記憶力じゃなきゃ忘れるわな」と思った。
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