マヒロ

ナッシュビルのマヒロのレビュー・感想・評価

ナッシュビル(1975年製作の映画)
3.5
大統領選挙を目前に控えたアメリカ・ナッシュビルの街で巻き起こる出来事を、様々な登場人物の目線から捉えた群像劇。

総勢20名以上の登場人物達を如何様に捌ききるのか…と思っていたら、どの登場人物も等しく主役らしい目立った活躍をするわけではなく、最後の最後まで一貫してドライな目線が貫かれている。そこであえて肩入れできるようなキャラクターを作らない、神の視点で物を見ているようなところがアルトマン節だなと思った。

ナッシュビルという街がカントリーの名所ということで、全編にわたって流れるカントリーミュージックが印象的なんだけど、明るい曲調とは裏腹にそれぞれのエピソードにはどこか翳りのあるものばかりで、常に不穏な雰囲気が漂っている。明確に何かが起きるわけではないというのが、かえってその街に潜むなにかを匂わせているようで恐ろしい。
そもそもカントリーを歌っている歌手たちは、能天気な愛国主義者のオヤジに夫に支配されて病んでいる女性と明らかに皮肉っぽいし、真面目に歌手になることを夢見ている女性は歌が下手で散々コケにされるし(このシーン痛々しすぎて見てて辛くなるレベル)、ここら辺からアルトマンが音楽映画を作ろうとは微塵も思っていないのが垣間見える。

ラストはアルトマンの他作品と同じくあっと驚くような展開が待ち受けているんだけど、集団心理の恐ろしさとか、ナッシュビルひいてはアメリカの隠し持つ病理を暴き出すような強烈なあてこすりで、猛烈に後味は悪いんだけどその痛烈さが気持ちよくもある…というものすごい居心地の悪い気分にさせられた。
散りばめられたユーモアでも隠しきれない悪意が滲み出ている怪作だと思う。

(2018.65)
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