佐方和仁

沈黙を破るの佐方和仁のレビュー・感想・評価

沈黙を破る(2009年製作の映画)
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兵役に就いて、戦闘兵士になって、異常なことを自分がやっていたり、問題が起こってもただ横で立って見ているだけで、だんだん慣れていってしまう、考えなくなってしまう、忘れようとする、そういうことは今自分が生きている社会と、働いている職場で起こっていることと地続きだと思った。イスラエルとパレスチナの事だけでなくたぶんどこにでもあることだと思う。

イスラエル人の家族、父と母とその息子のインタビューで兵士である息子に対して母親が大変な思いをしたと語り、息子はいや大変なんかではない、怪物になるのは簡単なことなのだ、というような返答をしていた。
大変なことだとして鉄のカーテンをひき、自分達とは別のものだとしてしまう母親の態度も、慣れてしまって簡単に怪物になってしまうという息子の言動も、両方ともこれからいつ自分自身に起こってもおかしくない問題だと思いながら見た。

映画を見ていくうちに、情報や映像として理解し知るだけではなく、なんとなくその人個人の手触りのような感触が伝わってきて情が湧いてきた。カメラを通して一方的ではあるけど、インタビューに答えている一人一人と出会っているようで、一人一人に対してリスペクトする感情が生まれていった。それは自分の感情でもあるけれど、映画を撮っている土井敏邦さんのまなざしでもあるのではないかと思う。
佐方和仁

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