佐方和仁

ノマドランドの佐方和仁のネタバレレビュー・内容・結末

ノマドランド(2020年製作の映画)
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このレビューはネタバレを含みます

彼女が働いてる場所や放浪しながら見て触れてきたものが自分の見て触れてきたものと重なる、自分のことが語られてるような映画だった。新年を一人で迎えるところなんて俺じゃんあれ。

ノマドのような暮らしじゃないけど18から住んでいる東京は自分にとって荒野であり砂漠であり雪原であり孤独な場所だ。職を転々としながらその灰色の風景をずっと見てきたように思う。

それだからかなんなのか、同じように放浪している男の子にサンドイッチを渡して自分が結婚式の時に読んだ詩を暗誦する場面や、脳腫瘍の手術をした友人の語るアラスカの燕の巣の話、その友人が亡くなってみんなで焚き火に石を焚べる場面とか涙が滲んできた。

あの詩がシェイクスピアの有名な詩だということをこの映画で初めて知った。ネットで調べたら燕の巣の話も書き起こしてる人がいたのでお借りして貼り付けておこう。


君を夏の日に喩えようか?
君はもっと素敵で穏やかだ。
荒々しい風は5月の可憐な蕾を揺らし、
夏のかりそめの命は短かすぎる。
太陽は時に暑く照りつけ、
黄金の顔が暗く翳るときがある、
美しいものみないつかは衰える、
偶然か、自然の成り行きによって刈り取られる。
だが君の永遠の夏は色あせない、
君に宿る美しさは消えることはない、
死神に死の影をさ迷っているとは言わせない、
永遠の詩にうたわれて時と合体するならば、
 人が息をし目が見えるかぎり、
 この詩が生き、あなたに命を与え続けるかぎり。
ウィリアム・シェイクスピア「ソネット18番」


いい人生だった
カヤックを漕いで美しいものをたくさん見た
アイダホの川でヘラジカの家族に出会ったり
大きな真っ白いペリカンが目の前に舞い降りたり
角を曲がると崖一面に何百というツバメの巣があって
無数のツバメが舞ってたり
それが水面に映って私もツバメと一緒に飛んでる気がした。
ヒナが孵化して小さな白い殻が川に落ちて流れていく
あまりに美しくて”もう十分”って
この瞬間に死ねたら幸せって


蛇足。

8年前の写真、何かの本のページを撮っている。ゴドーを待ちながらのことが書かれている。人間がぎりぎりまで疲弊してしまってもなお動かせる機械だと、無意味を生き延びるための一種朦朧とした勇気しか残ってないときに始動する機械だと、ゴドーを待ちながらのことがそう書かれていたページだった。なんの本だろう、いいこと言うなー、忘れちゃったなーなんの本か。
あのサンドイッチを渡す場面の男の子がこのぎりぎりまで疲弊してしまった人に見えた。
佐方和仁

佐方和仁