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女狙撃兵マリュートカのryosukeのレビュー・感想・評価

女狙撃兵マリュートカ(1956年製作の映画)
3.6
チュフライは、「人生は素晴らしい」「君たちのことは忘れない」はイマイチ乗れなかったのだが、それらと比べて砂漠や海辺を舞台とした映像に詩情があるのは良かった。まあやはり独自性みたいなものはない極々標準的なスタイルではあるし、テンポもゆったりかつ淡々としていて面白いかと言われるとそこまでだけど。
映像の淡い色合いはソ連が第二次大戦後にドイツから接収したというアグファ・カラーのフィルムによるのか、あるいは褪色なのか。心なしか、空の色や、台詞としても言及される眼や海の色である青はむしろとりわけ淡くなっていて、砂漠の民の民族衣装や火の赤が際立っているような気がするので、やっぱりフィルムの特性もあるのかなとは思う。
砂浜に横倒しになっている船を発見するシーン、波に揺られる船を浜辺から見つめるロングショット、月明かりに照らされた二人の引越し、画面奥と手前で分かれて二人が浜辺をうろつくカットと、浜辺のショット群がファンタジーのような幻想的な感じがあって良いな。
「食事などいらん貴族じゃないんだから」「神などいない、全て物理的現象だ」みたいなマルクス主義イデオロギー台詞はご愛敬。
荒れる波と苦しそうに身をよじる男がモンタージュされ、波打ち際をさまようマリュートカと看病する彼女が組み合わせられる。波が落ち着くと男は快方に向かう。
ロビンソン・クルーソーの物語を聞くマリュートカの高揚感は、海の煌めきとのオーバーラップで表現される。まあこの辺りはちょっとあからさま感も強いが。
各民族、各階級の真理があるという相対主義を語り始める男だが、これは受け入れられるはずもなく、仲が険悪になっていく。
やはりこの男とのハッピーエンドは、マリュートカ的にも、そしてソヴィエト映画的にも望むことは出来ず、彼女は敵を前にして、待て!「将校」!という一般名詞を使わざるを得ない。このエンドしか無かったのだ...。
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