ぎー

ディア・ドクターのぎーのレビュー・感想・評価

ディア・ドクター(2009年製作の映画)
4.0
【西川美和特集2作品目】
「その嘘は、罪ですか。」
まだ『すばらしき世界』を鑑賞する前であるが、現時点で西川監督ベスト映画であるし、とてつもなく素晴らしい作品だった。
確かに現代社会は資格とか免許に支えられている。
分かっている。
でも論理ではなくって感情で、そういう資格とか免許とかってどうでも良いと思える映画だった。
自分の親族が医者ばかりなのもあって、余計身に染みた。
フェラーリを乗り回し、日夜美容整形に明け暮れる医師が持て囃される現代。
確かに本作の主人公は医師免許を持っておらず、おそらく医学関係の知識も乏しかったに違いない。
では、どちらが医師なのか。
火を見るよりも明らかだろう。

驚くことに鶴瓶は本作が初主演映画。
そうとは思えないほど素晴らしい演技だったし、愛情に溢れた、でも、どこか影のある主人公にドンピシャのキャスティングであった。
軽い瑛太の乗りや、名女房役として他に類を見ない余貴美子、その死を悼んで仕方ない名老女八千草薫、西川作品に欠かせない香川照之とキャストは万全だった。

物語終盤では涙無しには画面を見ることはできなかった。
鶴瓶は八千草薫の、家族に病状を偽って欲しいという頼みを聞けば、何らかの齟齬が生じることを十分に知っていた。
にも関わらず八千草薫の意思を尊重した。
彼の自宅の医学本の山。
いかに村人のことを思っていたか。
だからこそ村から失踪した後も、八千草薫が入信ている病院に様子を見にきたのであろう。
警察の取り調べを受けた時、鶴瓶に何かしてもらえたかという問いを受けて八千草薫が振り絞った「特に何も。」という言葉に涙を禁じ得なかった。
こうやって人のために生きる人の姿を見ることは本当に良いことだ。

ただの感動話にしていないのも西川監督の凄いところ。
どうして彼は失踪したのか?というサスペンス要素を持って映画を見るから、どんどんのめり込む。
驚くことに画面で展開されているのはただのど田舎の、老人が老人を見る、あえて言うなら悲惨な長閑な現実であるにもかかわらずである。
これはおそらく西川監督以外が撮ったらこうはならない。
素晴らしい作品だと思った。
ぎー

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