新潟の映画野郎らりほう

スマグラー おまえの未来を運べの新潟の映画野郎らりほうのレビュー・感想・評価

4.1
【未来を掴め -絶体絶命最悪状況でも自らの手で-】


登場人物の吐瀉物嘔吐が超微速度映像で捉えられたバイオレンス映画。

ダークでシリアスな内容だが、コミカルやテラーへと瞬時豹変する人物行動 及び展開が、作品に[漫画コマ割的急転換]とも言える独自テンポを生み飽きさせない。

しかし全編で描かれるのは『過剰な暴力』であり、先述した微速度映像多用に拠るスタイリッシュな意匠と コメディ的妙趣によって幾らか緩衝されてはいるものの、その[嫌悪感]は相当強い。
否、むしろ怪演高嶋の"キチGUY"ぶりは コメディとスタイリッシュを完全エクスキューズに、嫌悪暴力の[最悪]を確信的に刷り込んでいる。

延々と妻夫木が嬲られ続けるだけの最終盤、我々はその嫌悪感から妻夫木同様に『絶体絶命どん詰まりの最悪状況』に追いやられる。 ~證券破綻、失業率5パ-越え、リーマン、年越し派遣村、少子高齢晩婚化、年金支給年齢引き上げ、中・韓・印の勃興、ニート・引き籠もり、無縁社会…。 斜陽閉塞状況は最悪化するばかりで[未来]は闇の中だ。
でもダメだダメだで諦めてるか。 腐ってるままか。
最悪の暗黒に残された僅かな光=未来に『手を伸ばす』のは自分自身なんだ。

~徹底的な一元化暴力の最悪の中に '99年以降の苦しい世情の闇を垣間見、あり得ない徹底虚構の中に現実的訴求を強く感じ、その光の鮮やかさに大いに勇気付けられた。




《劇場観賞》