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レッド・サンのyoshiのネタバレレビュー・内容・結末

レッド・サン(1971年製作の映画)
3.9

このレビューはネタバレを含みます

日本の誇る侍、三船敏郎。
無頼の男、チャールズ・ブロンソン。
孤高の男、アラン・ドロン。
70年代当時、たった一人でも主演を張ることが出来た各国の男臭いスター俳優が一堂に会して共演した奇跡のような映画。

「レッド・サン」は、西部劇に日本の侍が初めて登場した映画ではないでしょうか?
そして何より、現在でも海外映画に見られる間違った日本人描写がない稀有な映画。
(日本人が演じているから、当たり前なのですが。)

江戸時代末期、日米修好の任務の為にアメリカからやってきた日本国大使一行が乗る金貨を積んだ郵便列車が、強盗団に襲われ、ミカドから大統領へ献上する宝刀が盗まれる。
(娯楽作品なので、史実や時代考証は目を瞑るべきでしょう。しかし、列車内に飾られた日本美術の装飾品と侍の装いはちゃんとしています。)

奪われた宝刀を取り戻すため、三船が演じる黒田十兵衛が強盗団を追いかけるというストーリー。

卑劣な強盗団のボス、ゴーシュ役がアラン・ドロン。
(フレンチ・ノワールでは、孤高の男の役が多い彼が、珍しく集団を率いております。)
強盗団の一味で自分を殺そうとしたゴーシュに恨みのあるリンク役、チャールズ・ブロンソンが三船と組む相棒となる。

この2人の米仏のスターを前にして、我が国の誇る侍、三船敏郎がまったく見劣りしないのが、先ずもって驚き。

西部劇なので英語こそ話すが、見知らぬ異国でも物怖じせず、毅然とした態度で堂々と渡り合う。
(「戦場にかける橋」の早川雪舟に匹敵する英語力と威厳です。)

全体的な様相はチャールズ・ブロンソンと三船敏郎のロードムービー。
違う価値観の二人が反目しながらも徐々に友情らしきものを深めていくバディ・ムービーでもあります。

チャールズ・ブロンソンは金貨を奪った上、自分を殺そうとしたアラン・ドロンに復讐するために、三船敏郎は宝刀を奪回するためにアラン・ドロンを追う。

広い大西部の風景で、本来なら奇異に映る三船敏郎の着物姿ですが、とても凛々しく清潔に見えます。
当然ながら貫禄があり、所作すらも美しい。
逆にウエスタンスタイルのブロンソンが薄汚れた若造に見えてしまうほど。
誇り高い人間と根無草のチンピラのような構図が面白い。

ブロンソンが三船を出し抜こうとしたり、勝負を挑んだりするが、武道の嗜みのある三船には全く敵わないのが笑える。

また馬に跨って荒野を疾走し、刀や手裏剣などを駆使して戦う三船のアクションは、銃だけを頼りにして戦う西部劇の男たちが間抜けに見えるほど。

やがて立ち寄った売春宿でゴーシュの情婦役にウルスラ・アンドレスがヒロインとして登場します。
ご存知「007/ドクター・ノオ」の初代ボンドガール。
監督が同一人物ですから、その繋がりで起用したのでしょう。
男臭い画面に華を添えようとしたでしょうが、あまりのグラマラスさに、一層画面が濃厚になります。(笑)
彼女を人質にとり、ゴーシュが逃亡を許さない状況を作る2人。

西部の売春宿で、侍はどうするのかと思えば、「武士は食わねど高楊枝」ではなく「据え膳食わのは男の恥」だった。(笑)

世界の三船は女性の扱いも国際的。
貫禄ある男の余裕すら感じさせる。
当時の日本の男性観客に向けて「どうだ?羨ましいだろう?」という心の声が聞こえて来そうだ。

後半、インディアンのコマンチ族に襲われるくだりがあり、適役のドロンも、ブロンソン・三船と一丸となって戦う。

立場的には敵味方なのだけど、それぞれのキャラクターが一方的に適役にならないのは、トップスターへの配慮でしょうか?(笑)

コマンチ族襲撃のドサクサに紛れて宝刀を取り戻した黒田。
殺された同僚の復讐心から、金貨の隠し場所を知るまではゴーシュを殺さないというリンクへの約束も忘れて、後ろからゴーシュに斬りかかろうとする。

武士は後ろから斬りかかるなんて!と思うのですが、やはり誇り高き武士である黒田はゴーシュを後ろから斬ることに一瞬躊躇します。
ここを見逃してはいけません。

卑怯な真似をするのは、やはり武士の恥。
リンクは黒田に対して「斬れ!」(絶好のチャンスだ!約束なんか気にするな!)と叫ぶのですが、我に帰った黒田にゴーシュのピストルが一瞬速く火を吹き、黒田は倒れるのです。

(日本人としては名作「用心棒」のようなピストルvs日本刀の一対一での対決を期待するのですが、日本刀が勝ってしまっては、欧米の観客が納得しないからでしょうね。)

黒田が撃たれた次の瞬間、リンクは金貨の行方など構わず、ゴーシュを撃つ。
尊敬に値する異国の友を撃たれた怒りが爆発します。

ゴーシュを倒したリンクは、宝刀を日本の使節団に返して立ち去る…。

武士の誇りを尊重したかのような三船演じる黒田の死。
幕末の設定なので、はるか遠い異国の地で死す最後の侍の姿は涙を誘います。

金よりも大切なものがあるぜ!というブロンソンの漢気。
モノ凄い美男子なのに、まるで虫ケラのように死んでいくドロンの死の虚無感。

3大スターがこれまでの出演作品で築き上げてきた三者三様のイイトコどりをしたような、娯楽に徹した作品です。

アメリカという異国の地でのサムライの活躍という変化球ゆえに「名作」とは言いがたいのですが、欧米の映画で日本人がこれほどカッコよく、しかも敬意を持って描かれている映画はなかなか無い。
日本人としても一見の価値がある作品。

チャールズ・ブロンソンは、三船敏郎出演の「七人の侍」の西部劇リメイク「荒野の7人」に出ている。
アラン・ドロンは武士道をモチーフにした「サムライ」に主演している。

これは決して偶然ではないでしょう。
スタッフ・キャストは黒澤明作品を見ているはず。
その主演である三船敏郎演じる侍に尊敬の念を抱いていたはず。
だからこそ間違った日本人描写がないよう配慮している。

欧米が武士道精神に憧れを持って作った映画でもある訳です。
(元々、企画を持ち上げたのは、三船敏郎自身だそうですが。)

日本人の道徳である武士道精神が、海外でも通用すること、しかもカッコいいことを証明しています。

追記
今、見るべき価値がある映画ですね。
今年は東京オリンピックの年。
外国人観光客に日本各地で会うことでしょう。
「おもてなし」精神を履き違えて、外国人コンプレックスからペコペコと平身低頭の対応だけではいけない。
三船敏郎の堂々と渡り合う対応は見習うべき所が多いです。
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