ひろ

麦の穂をゆらす風のひろのレビュー・感想・評価

麦の穂をゆらす風(2006年製作の映画)
3.7
ケン・ローチ監督が、アイルランド独立戦争とアイルランド内戦を背景に描いた2006年のアイルランド・イギリス合作による戦争映画

第59回カンヌ国際映画祭においてパルム・ドールを受賞した

イギリスの至宝とまで言われている偉大なるケン・ローチ監督。彼は英雄を描くことなく、常に労働者階級の名も無き人々を描いてきた。今回もアイルランド独立戦争とアイルランド内戦に翻弄された名も無き兄弟を軸に、戦争の痛ましさを伝えている。

イギリスとアイルランドが対立していた歴史は知っていても、日本ではそんなに馴染みがない歴史だと思う。この映画はそんな両国の痛ましい歴史を知ることのできる観るべき作品だ。

世界中の歴史でも何度も繰り返されてきた、一方的な暴力に対する戦争。正義と言う名の元に戦うIRAの兵士たち。しかし、戦争というものは、心に掲げた白い旗を黒く染めていくもので、彼らは希望に向かって絶望していく。

自由を求め、いつしか同胞や兄弟までもが戦うことになっていくのは、観ていてつらい。最後はあまりにも悲しいが、これが戦争なんだと言わんばかり。こんなに戦争をしっかり描いた戦争映画は久しぶりに観た。

主人公デミアン役のキリアン・マーフィ。ケン・ローチ監督をして、「パルム・ドールを受賞したのは、彼の演技があってこそ」と言わしめた演技は必見。印象的な青い瞳が代名詞でもあるキリアンの目に注目。“目は口ほどにものを言う”という言葉があるが、まさに彼の瞳が戦争の虚しさや愚かさを代弁している。

偉大なるイギリスの監督が、イギリスの負の歴史を映画化したことにより、反英国映画と言われたりしたみたいだが、母国の負の歴史をしっかり描いたケン・ローチは、本当に偉大な監督だと思う。

ちなみに、あの辛口な井筒監督が、この映画を“映画の中の映画、超映画”って絶賛してました。
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