磔刑

おとうとの磔刑のレビュー・感想・評価

おとうと(1960年製作の映画)
4.5
おススメ度☆☆☆
地味ながら中々ストレスを覚える内容。しかし、その中で健気に逞しく、陽気で献身的に振る舞う姉の姿に強く心を打たれる。そんな理想のおねーちゃんに“バブみを感じてオギャ”りたい人には超おススメです。
<以下ネタバレあり>



観てて、終始「うおおおお!!ねえちゃあああん!!」ってなる。妹派の人も姉派になること間違いない。それぐらい岸恵子の“バブみ”が凄い。

オープニングでは岸恵子演じるねーちゃんがスゲー老けて見え、「なんやこのババァ!!主人公の母ちゃんか?」とか思った(この時の実年齢、20代後半だから仕方ないね)。でも、中盤ぐらいからはねーちゃんの存在に完全に心を奪われた。
特に、終始漂う糟糠の妻感。その癖、全然悲壮感とか、悪意、妬み、僻みみたいな負のオーラが全くなくて、なんなら屈託の無い天真爛漫な少女みたいな一面が眩しい!!!その母性と処女性のギャップのケミストリーが生むバブみが最高にグッとくる!!!
今でこそありがちな萌え漫画的属性、女子小中高生なのに家事手伝いが万能正妻ポジションキャラ。そんな現実にありえん属性を説得力を持って演じる岸恵子がホントに素晴らしい。

もう、観ててねーちゃんの幸せしか願ってなかったわ。だから弟が病状に伏してからはドラマとしては盛り上がる反面、不謹慎だが「もう、お前がなるべく早く死んで、ねーちゃんを自由にしてやってくれ」と思ってしまった…。それぐらいねーちゃんの気苦労の多さに同情したし、それをおくびも見せない健気さに心打たれた。その反面、弟の一刻も早いフェードアウトを願うのは、自分がげん程できた人間ではないからだ。

エンディングの唐突さにはマジでビビった。情緒もクソも無く、突然ねーちゃんが布団から飛び起きて外に駆け出して終わる。
一瞬何事か理解出来なかったが、これはある意味ではバット・エンドだなと…。放蕩の弟が他界し、ようやくねーちゃんにひとりの女としての、自由と幸せが訪れるかと思ったとのつかの間。弟が亡くなれば、すぐさま葬式の準備をしなくてはならない。それが済んでも家に帰れば家のことなど何もできない父と、リウマチに苦しむ継母しかいない。そんな2人を引っ張り、支えれるのは自分しかいない。そんな、今までとなんら変わりない、彼女の“目まぐるしさに忙殺される日々”をあえて情緒無く描いたのは、余りにも見事が過ぎる。ほんと、観ててねーちゃんが行き遅れるのだけは、避けて欲しかったが、それが避けれなかったのは非常に胸が痛む反面、作品のエンディングとしては完璧と言わざるを得ない。

最初は継母にクソ程イラつくのだが、父親の完全論破には“スカッとジャパン”でカタルシスある。
しかし、物語のクライマックスには継母なりに娘の心配をしていたこと、逆に父親は息子を甘やかし、その為に娘を蔑ろにしていたことが露呈する。また、継母のことを煩わしく思っていた弟も、自分の自由が効かなくなって初めて、相手の苦労を知る。
もし、ねーちゃんが苦労もなく嫁に行ったり、弟も病気にならなければ、父や継母の日頃は見えない以外な一面を垣間見得ることはなかっただろうし、これ程までに家族が理解し、尊重し合い、一つになることは無かったと思うと、人生ままならないものだなと思う。そんな人間性と人生観の二面性を端的かつ、リズミカルに演出する市川崑監督の演出力の高さも見どころである。

自分も弟ほどじゃないにしろ、甘えたな気質。仕事でも、ブライベートでも、自分よりできる人間には寄りかかる癖があるので、あんまり弟のことは悪くは言えないなと。
でも、あんなできた人間は早々いない。これ程までに理想の姉は、現代でユニコーンを探すぐことぐらい、無謀なことやと思うよ?ああ!!岸恵子みたいなおねーちゃんが欲しいよ!!!
磔刑

磔刑