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ブルース・ブラザースのAnima48のレビュー・感想・評価

ブルース・ブラザース(1980年製作の映画)
4.6
ふらっとバーに入って偶然隣り合わせた初対面のギタリストと映画の話を始発までしてたことがある、どうやらブルースブラザースは一定の人を饒舌にさせるみたいだ。

黒スーツ、黒ネクタイ、サングラス、ソフト帽というスタイルの2人はサングラスを殆ど外さなくって、粗野な惑星から来た不遜なエイリアンみたいに見える。どんなトラブルにも冷静沈着というかピンチを感じてなさそうで、自分たちの悪運の強さを信じ切っているように見えハチャメチャなこともするけれど、基本的には降りかかった火の粉から“ずらかる”ことも多かったようにも思う。

コントが延々と断続的に続き、素敵な曲が流れ、激しいカーチェイスがあってとバラバラのようにも見えるけれど不思議と楽しめるになってしまうのはなぜだろう。シカゴの薄汚れた日常的な光景が少し重々しいリアルな雰囲気で撮影されていて、そこにいきなり物理法則も無視した破天荒な挙動が現れて、日常の中にポッと異空間が湧いて出た感がある。そこでは多少変わった事、例えば空を舞うような宙返りを見せるダンサーや過剰武装のミステリアスな女性が出てきても、画面から浮いてはいない。警官やSWAT、軍隊までが二人を追いかけてるような大袈裟な狂気じみた事態でも、慌てず“まあ、そんなこともあるよな”くらいの涼しい顔してせいぜいスーツや窓の汚れを気にする程度で淡々としているあの二人。触れるものをなぎ倒す、でも兄弟達の不思議な魅力に耐えれずに周りが勝手に壊れていくようなスラップスティックな光景とサングラスが似合う乾いた質感のオフビートなジョークが列を作って並んでいる。とてつもない騒ぎを起こしている間にも、自由奔放で不埒なでマイペースを崩さない彼らは悪運というバリアで守られている?それとも本当に彼らの聖なる任務を神が見守っている?そんな感じであんまり細かなモラル的なことや辻褄の合わなさよりも、画面に起こっていることを兄弟の勢いやその場の“ノリ”に身を任せて楽しんでいける。まあ、言葉にすると野暮ったくなってしまうけれど。

エルウッドの運転するポンコツダッジパトカーが要所・要所でひと踏ん張りして、生きているかのようなとんでもない動きをする、パトカーがまるであの兄弟の末弟のようだ。それもなんだかやっぱり超自然的な動き。だって宙返りするんだよ!?CGでは表現しづらい不条理さだった。ショッピングモールでのカタストロフ的なチェイス。イノシシがヌタバで暴れているような、せっかく綺麗に洗った犬が泥んこに大喜びで飛び込むような様子で店内を壊しながらパトカー達が進んでいく。まるでドッグランでの犬たちの追いかけっこのようだった。CGとかではなくて実車を走らせて撮ったカーチェイスではパトカーのマラソン大会のようにシカゴの街を走っていき、カーチェイスの果てにはまるで退屈した幼児が乱雑にミニカーをぶつけて遊ぶように、パトカーのスクラムが積みあがっていく。バンドの演奏で勢いのある“I Can’t Turn You Loose”がモールで、シカゴへ向かう道中で”Sweet Home Chicago”が流れる。シカゴに入ってからも、消え去る音楽がずっと続いているように聞こえた。夜の街を滑るように走っていく時の“Peter Gun”とかバンドの演奏がすごくいい。兄弟2人のボーカルに、4人のホーン、2人のリズム隊と、リード・リズムギターの2人にキーボード。彼らを宥め強請って集める様子は、兄弟2人による身勝手な7人の侍みたいだった。ただひたすらバンドの演奏をずっと聞いていたい。

ジェームズブラウンのインパクト、強烈なおっ母さん性を感じるアレサ・フランクリン、レイ・チャールズの歌とキーボード、キャブ・キャロウェイのスキャット“”ハイディ・ハイディ・ハイディ・ホー“とかそれぞれのミュージシャンのパフォーマンスがすごくて、夢の時間だった。思えば、ゴスペル、R&B、ソウル、ブルース、ジャズ、ロックンロールっていうあの国のアフリカ系アメリカ人の音楽のランドマークを巡るようなストーリーだと思う。そして2人は尊敬や愛からかそれぞれの場面で主役の座をミュージシャンに引き渡していて、それぞれがまた音楽のアイコンとして再生したようにも見えた。

2人にはなんだか身内の攻撃しか効かないようで、悲鳴を上げたのはジェイクに肩をはたかれたのと救護院のシスターがライトセイバーのように振り回すお仕置き棒にぶたれた時だけだった、棒で往復ビンタって初めて見たよ。警察や軍隊というようなものに限らず、ナチスとか彼らを捕まえて服従させようとする人たちの言うことは聞かない。富裕層でいっぱいの高級フレンチで、カクテルシュリンプを腕をからませて食べて、パンをお互いの口に投げ入れ、シャンペンのグラスが違うといわれても、いいからいいからと言ってずびーって啜って飲む。ある種のハイカルチャーを大切にする層には喪服を着た悪魔のようにも見えるに違いない。そんなエルウッドが寂しい下宿で白いパンを本当に大切に小さなコンロで焙っている様子がとても侘しく見える。そこに社会から切り離されたつまはじき的な存在、つらい現実の中でも頑張っている普通の人の姿が見えるような気がした。そんな人たちを助けるのは本来政府の役割の筈なのに2人がそれをやろうとしてる、払い下げの古びたパトカーに乗って。

2人を親戚の騒がしい兄弟のように通りの向こう側に住んでいる悪ガキのお兄ちゃんのように見ることが出来たら、このストーリーは楽しい気分の時に見て笑い、なんだか落ち込んだ時にはただ流し、哀しいと言っては見返す毎日の喜怒哀楽に寄り添っていく一本になっていくんだろうなって思う。
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